引きこもり婚始まりました






後頭部に差し込まれた長い指が、髪に絡むだけでゾクリとするのに。
求められてるのが脳に直接伝わるような視線は、何度自惚れだと思おうとしても上手くいかなかった。


「……可愛いとこ見てこんなになるくらいなら、さっさと襲えばいいのに。めぐから誘わせてごめん」

「う、ううん……」


「そんなつもりじゃなかった」は通用しないし、私の方こそ、最早照れ隠しすらできないほど優冬くんの色気に中てられていた。
確かに、優冬くんがムードを作ってくれた方がスムーズで、絶対に色っぽかったと思う。


「優冬くんのそういうところ、好きだから。ありがとう」

「……っ」


目の前で顔が歪んで、もしかして嫌なことを言ってしまったのかも――そう思った次には、優冬くんの顔が真上にあった。


「……そう来るとは思わなかった」

「……え……? 」


どうして辛そうなのか、私の発した言葉のどの部分が傷つけたのか、それとも全てだったのか。
それだけじゃ足りず、行動も不快だったのかもと必死に考えていると、両耳の横についた手に閉じ込められた。


「正直、“好き”はいつか言ってくれると思ってた。でも、どこがなんて……俺といてくれるなら、理由なんて何だっていいと思ってたのに」


(……それが春来の弟だから、でも……)


それを忘れていいなんて、気分転換なんて。
如何に浅はかだったか、そこまで言わせて思い知る。
謝ることすら許されないのが事実で、だからこそ優冬くんのそんな表情から逃げることだけはしたくない。
辛かった苦しかった、その原因は私だって言いながら触れられても仕方ないと思った。

――なのに。


「元彼の弟じゃなくて、俺自身を見てくれて嬉しい。そんなの、俺は望むべきじゃないと思ってたけど」

「……そんなことないよ……! 」

「……うん」


――なんて、愛しそうに私に触れるんだろう。


「だから、これからは……もっと欲しいな」


こんな瞳を、私は他に知らない。
可愛いくて愛しくて堪らない――でも、ペットや赤ちゃんを見るのとはまったく異なる色気に塗れた目には、ともすれば捕食される側に回ったようにヒヤリともさせられて。


「めぐは、きっとそう言ってくれる。分かってたからこそ、自制してた。春来の弟だってことも、最低な兄がいるってこともなくして、ただの男になったら」


優しい指先にピクンとしてしまったのを見ると、すごく驚いた顔をした後、なぜか嬉しそうに目を細めた。


「……もう、止められない」


囁かれた瞬間にかあっと赤く染まった耳に口づけられ、反射的にきゅっと身体が縮こまって――私の反応を見た優冬くんの喉が動いたのがバッチリと視界に入る。
これ以上は見ていられなくて手の甲を瞼に押し当てると、あっという間に無防備だった唇を塞がれてしまう。


「だーめ。目を瞑っていいのは、キスの時だけ」


そう言われると、キスの時すら目を閉じられなくなりそう。


「俺、何度も確認したでしょ。今までも、今日だけでも、この部屋に入ってから何度も」


――だから、もうしてあげないよ。


「覚悟終わった……? 」


それでも矛盾した言葉を続けてくれる、優冬くんが好きだ。


「とっくにしてる。じゃなかったら、部屋に入らないよ」

「……だね。じゃあ……」


期待していたんだと言われてしまうと、ますます羞恥で小さくなるしかない。


「……もうそろそろ、堕ちてね」


そう言いながらも、身体の強張りに気づいてゆっくりキスを再開してくれた。


(……優冬くんだから大丈夫)


今夜、完全に堕とされるんだ。
部屋に入るずっと前から、私はそう決めてた。









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