引きこもり婚始まりました
優冬くんは、思ったとおり優しくて。
「めぐ……」
思ったよりも、ずっと執拗で――……。
「ダメ、可愛いでごまかさないの。……ちゃんと口で言って」
(可愛いくもないし、ごまかしてないのに……)
――予想外に、結構意地悪だった。
・・・
(〜〜っ……)
何が、起きたのか。
いえ、あの、つまり事後なんですけど。
もちろん意識はあるし、別に変なことをされたわけじゃない。
(……でも、でもでも……!!!! )
隣というには、あまりにも密着している優冬くんの寝顔をぼんやりと見つめた。
いや、こんなに茫然として視点が合わない状態では、見つめるとは言えない。
(ゆ、優冬くんだったよね……? )
終わってマトモに戻ったら、一緒に寝ていたのが他の男だったなんてあり得ない。
それが春来だったなんて、もっとずっと起こり得ないし、もちろん全然違った。
首を傾げたくなるのは、相手が優冬くんだったと分かってる余裕があるからに決まってるけど。
『俺のこと好き? あ、ダメだってば。もちろん、めぐが好きでもないのに寝たりするタイプじゃないのは知ってるけど。そのお口から、可愛い声で聞きたいの』
――それとも、やっぱり……兄さんの代わりだった……?
『あはは。っ痛、痛いから。ごめんって。ん……分かってるよ。でも、分かってるから聞かなくてもいいわけじゃないし。ね、教えて? 』
切なそうにお願いされて、敵うわけがない。
ましてや、優冬くんは上にいるのだ。
逃げられるはずもないし、逃げないって私が決めたから閉じ込められてる。
『……好き……』
完敗の最大の原因は、拒む理由もなくただ事実を口にすればいいだけだってこと。
デメリットとしてはとんでもなく恥ずかしいのと、一度認めれば更なる敗北を生むということだけど。
それも嫌じゃないから困る。
『……うん。俺も』
『……俺も? 』
私に言わせたのに、そこで終わられると何だか癪だ。
『少なくとも今は俺の方が好きだし、深いよ。でも、知りたいなら俺も教えてあげる』
――後悔しないといいけど。
(……何のスイッチ……)
今でも分からないけど、何かを押してしまったのだけは確か。
その会話の前も十分甘ったるかったのに、そこからの優冬くんは毒々しさすら感じる妖しい色気を湛えていて。
(初回でボロ負け……勝ち負けじゃないけど、今後もそうだったら身が持たないかも)
おまけに、その寸前。
好きに加えて、掠れた声が言ったのは。
『……萌』
耳奥に流し込むみたいに、耳の軟骨にほぼ唇が触れた状態で、省略せずに名前を呼んだ。
「反則……」
やられた。
完全にノックアウト。
恐らく、それで私のスイッチも同時に入ってしまって記憶にない――嘘、忘れてしまいたいくらい――……。
「……何が? 」
――求めてしまったのを急速に、強制的に思い出す。
後ろから腕を引っ張られて、でも、反対側の腕で腰を支えられているからベッドにはダイブすることなく。
ぽすんと優冬くんの胸に沈んでしまうと、ほっとしたりドキドキしたりで心臓が忙しい。
「何だか分からないけど、よく言うよ。俺だって、なんか食われちゃった気がするのに」
「……っ、ど、どこが……!! 」
完全に食われたのは私の方だ。
いろんな意味で。
「はいはい。そうだね」
クス……と静かに笑う優冬くんは、まだ意地悪モードを大いに引きずっている恐れ。
「……ごちそうさまでした」
――大アリ。