引きこもり婚始まりました
それを究極の「愛してる」だと認識するのは間違ってると、私には分かっている。
私は正気で、他のたくさんの人と同じように良識ある人間だ。
誰にも迷惑は掛けないし、自分を安売りしたのでも、どうなってもいいと投げやりになったのでもない。
優冬くんに愛されて幸せになる。
ただ、私の意思でそう決めただけ。
・・・
「まだ、寝てていいよ」
髪や頬を撫でられるのが心地いい。
カーテンの隙間から漏れる朝日が瞼を刺す刺激すら、今朝は嫌じゃなかった。
「仕事が……」
在宅勤務とはいえ、サボれるのとは違う。
「ここでしたらいいよ。ログインだけしとけば、何とかなる」
出社するよりも、格段にサボりやすいだけで。
「それはちょっと……」
「いいじゃん。ベッドにパソコン持ってきなよ」
「取って来なよ」とは言わないで、私を抱っこしたままで言うのをみると、それすらさせるつもりないのでは。
「仕事にならない? 」
「……正確には、仕事する気になれなくて困るのが目に見えてる」
「だったら、休んでここにいてくれたらいいのに。付き合うよ? 」
優冬くんとベッドでごろごろしてたら、ダメ人間になりそうで怖い。
ぬるま湯というより、ここは沼だ――現に、私は未だに上半身すら起こせていない。
「冗談……というか、半分本気だったけど、了解。休憩する時は声掛けて。一緒にのんびりしよ」
「……ありがと」
一度キスした後は、わりとあっさり解放してくれた。
服を着ながらそんなふうに笑うってことは、私は拍子抜けした顔をしているのかも。
「そんな顔してると、“一緒にシャワー浴びよ”に変わるよ。そうなったら、後はご想像どおりのコースになるけど」
「……支度します」
そう言いながら、部屋を出たのは優冬くんの方で。
部屋を占拠してるのは私なのに、気を遣ってくれたんだろうな。
普通の、信じられないくらいの溺愛彼氏だ。
(……夢、だよね)
ううん、夢だろうと現実だろうと関係ない。
どっちにしても、優冬くんは私を慰めてくれてただけだ。
『ずっと、怖かったね……』
もう大丈夫、もう怖いことは何もないよって。
何度も頭から頬、首筋、背中――往復する手に色っぽさはあまりなく、ひたすら優しく負った傷を癒してくれるような触れ方だった。
(どうして、私……)
――怖い、なんて。
いや、やっぱりあれは夢だったんだろう。
じゃなきゃ、理由もなく怖くなったりするわけない。
だって、あれは優冬くんだったのだ。
囁き声も、なぞるように触れる指も、触れるだけのキスも。
どれも、ここ数日で知った優冬くんそのものだった。
それを怖いと感じたのなら、前後に見た悪夢と混同しているに違いない。
「……さむ……」
服を着なくちゃ。
震えたのは、自分を抱きしめるように二の腕を擦ったのは肌寒かったから。
裸なんだから、当たり前だ。
さっさと準備しなくちゃ。
「……あ……」
エアコン、つけてくれたんだ。
冬でもないのに適温を保つ為なんて、私一人だったらまずやらない。
ブランケットも肩に掛けてくれてて、やっぱり優しい。
でも、それなら今の身震いは。
(……違う)
大丈夫、怖くないよ。
そう説かれ続けながら、ぎゅっと目を瞑ったのがバレてませんように――ただの夢に対して、どういうわけか今願ってしまったから。