引きこもり婚始まりました
『落ち着いたら、飲みにでも行かない? 』
しばらく泊まらせてくれていた友達が絶妙なタイミングで誘ってくれて、頬が緩んだ。
頃合いを見計らってくれてたんだろうなと思うと、連絡できなくて申し訳ない。
でも、次に別の通知を見てしまって、気分が台無しになる。
『無事か? 』
危険なのは、春来といて修羅場に巻き込まれる方だ。
返信すれば、思うつぼ。
次にコンタクトを取るとしたら、優冬くんとのことに進展があった時だ。
『へぇ、行ってきなよ。俺には言いにくい愚痴とかあるでしょ。え、ないって? 絶対嘘だ』
第一、優冬くんは笑ってそう言ってくれた。
『駅まで迎えに行くよ。ダメ、それは譲らないから』
そんな、甘い条件をつけて。
・・・
「……まさか、盛ってる? 」
「……事実しか話してない」
都合よくガヤガヤした店内、お酒が進むとひそひそ話す必要もなくなってきた。
「疑ってるわけじゃないんだけどさ。もしかして、この後のこと読まれちゃったかなと思って」
「え? 」
作り話と思われても仕方ない。
だって、お世話になっておきながら、部屋を出る時すら大して何も説明してなかったんだから。
「いや。実は、萌に紹介したい人いたんだよね。紹介っていうか、萌も既に知ってる人だけど」
「え……と。それは……」
かなり気まずい。
知らない人だったら、ここで断れば終わる話だけど。
一体誰だろう。
心当たりがなさすぎて、逆に気になる。
ううん、ここは知らないでいた方がいいだろうな。
「戸村。萌のこと、ずっと好きだったらしいよ」
「……疎遠になったと思ってた」
「萌とはね。私は、散々愚痴聞かされてたからさ。動くのが遅すぎたんだよとか、今からでも奪う努力すればとか、結構強く言っちゃったから……まあ、食事くらい行ってやれば? って言うつもりだったんだけど」
学生時代からの友人。
春来と付き合ってから、何度か会った気がする。
「今だから言うけど、春来くん、結構なプレッシャーかけてたからね。そりゃあ、イケメン御曹司に笑顔で凄まれたら、萎縮するのも分かるし。スペックは落ちるかもしれないけど、一途さでは勝ってたなと思って」
「スペックなんて、私が言えることじゃないけど。でも、ごめん。応えられない以上、連絡取り合うべきじゃないと思う」
(……何も見えてないにも程がある)
優冬くんにしろ、戸村くんにしろ。
私は本当に――……。
(春来しか見えてなかったなんて)
「そうだね。こんな時に、変なこと言ってごめん。で、で? その優冬くんのこと聞かせてよ」
最悪。
友達とは有り難いもので、そう思わせないように思考に割り込むみたいに続けてくれた。
「今度、紹介するね。優冬くんは……」
最高の彼氏で、気持ちの面でも本当に婚約者になりつつある。間違いなく、大切にしてくれる。
――私、だけを。