引きこもり婚始まりました




間が空けば空くほど怪しい。
分かっているからこそ何秒くらい経ったかと、脳が無意味な計算をしたがる。

そんな必要ない。
私は一体、何を焦ってるんだろう。


「……あのね」


言わなくてもいいけど、隠さなくてもいいこと。
でも、今明らかに私は固まってしまった。
心配させるくらいなら、すぐに言ってしまった方がいい。

――それだけのこと。


『会って、ちゃんと友達になってくれないかな』


友達から聞いたことから、たった今来た戸村くんからのLINEの続きまで。


「……そっか。教えてくれてありがとう」


全部話し終わるのに、ほんの数分の出来事。
一気に話し切ってしまったから尚更だ。


「緊張した? ごめん。話すの勇気いったよね」

「……うん。まさか、連絡来るとは思ってなくて」


優しく背中を擦ってくれて、やっと呼吸のペースが普通に戻ろうとしてる。


「気になるなら、行っておいでよ」

「……え」


想定外の言葉に驚いてると、苦笑して背中をトンと叩いた。


「そんなに驚かなくても。そりゃ、嫌か嫌じゃないかって言われたら嫌だよ。でも、信じてるから」

「もちろん、断るに決まってるよ。本当にいいの……? 」

「はっきり振られたいって言ってるんだから、そうしてあげて。何かあったら、すぐ連絡してね」

「うん……」


正直、意外だ。
疑ってるわけじゃないし、優冬くんがそんなの強制するとは思ってないけど。


「会いたくなかったら無理しないでいいんだよ。俺も安心するし。ただ、めぐがスッキリしないんじゃないかと思って」

「……そうだね。ちゃんと断って、もう連絡取らないようにする」


きっと、それが最善だ。
ずるずるとやり取りを続けていたら、いらない心配をさせてしまう。


「うん。でも、やっぱり不安ではあるから……こっち来て、大丈夫だって教えてくれる……? 」


私、何をビクビクしてたんだろう。
いい気がしなくて当たり前なのに、こうして送り出してくれようとしてるのに。


「好き。絶対に、ちゃんと断るよ」

「……っ、ありがと……」


優冬くんの首に腕を回すと、なぜか、ものすごくびっくりしたみたいに目を丸めて。


「めぐが断ってくれるのは信じてる。でも、その男の気持ちも分かるんだ」


信じてても、不安にならないわけじゃない。
だから、さっさと終わらせるべきだ。


「めぐは優しい。……そんなの、俺が一番知ってる。だから心配になるんだ。君は無意識だと思うけど。だからこそ、男ならその優しさが特別だって、きっと勘違いしたくなる」


――俺が、誰よりも知ってる。

私だって、特別言えるほどの善人じゃない。
優冬くんに優しかったというなら、優冬くんも私に優しくしてくれたからだ。
でも、その言葉は切なくて、とても反論はできなかった。


「私には、恋人も婚約者もいる。そう言うだけ言って、帰っても……? 」


たとえ今までそうだったとしても、今度は勘違いできる要素は一切入れない。そして、それが最後だ。


「諦められないことが、期待を生むってことだよ。めぐのせいじゃない。大丈夫。君は、何も悪くないから。でも、お願いしていい……? 」


――キスして。

優冬くんが安心してくれるなら、いくらでも。
お互い、何も怖がることはない。
春来にしろ、戸村くんにしろ、ゴタゴタはもう終わる。


(……終わらせるんだ)






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