引きこもり婚始まりました
次の週末。
私はようやく、揃って優冬くんのご両親に挨拶に行った。
というのも、「めぐのご両親が先」だと譲ってくれなかったからで、親の会社関係や世間体よりもうちの実家を優先してくれたことが嬉しかった。
「……とは言っても、春来や俺たちがしてることは消えないから。もう一回と言わず、二人も謝罪した方がいいよ」
「えっ……も、もう大丈夫だよ」
うちの両親だって、寧ろ優冬くんにずっと謝りたかったみたいだったし。
春来はともかくとして、そこまでしなくても。
「いや、当然だよ。会ってもらえるなら、すぐにでも伺いたい。ご都合を聞いてみないと。めぐちゃんのご両親のいい日時にすべて合わせよう」
「えっ!? いえ、おじさんこそお忙しいのでは……」
今日だって、結構無理に時間作ってくれたみたいだったし。
「謝る方が合わせてもらうなんて変だから、いいんだよ。それだって、謝られる方の気持ちなんて無視してるんだから」
「……でも、春来のあれは、みんなのせいでは」
「それを言うなら、何よりもめぐのせいじゃない。それに、俺は俺のこと許してもらいたいんだ。春来の為じゃない。ね」
(だから、優冬くんを許さなきゃいけないことなんてないのに……)
ここは何度話しても、ぐるぐると回るだけだ。
赦し、なんて――……。
『裏切った男の弟なんて、一番信用できないと思います。当然すぎて、反論なんてしようもない。でも、俺は本当にずっと』
「めぐ? ……どうかした? 」
『めぐだけを想ってきたから。これからも絶対に変わらないって誓います。許してもらえるまで、何度でも』
私が春来や他の人といる間、もちろん優冬くんだっていろいろあったはずだ。それこそ、あって当然のこと。
それなのに、付き合ったことがないわけじゃないことも、それが本気とは言えなかったことも、わざわざ全部説明してくれた。
「……あ、赤くなった。よかった」
「よ、よくない」
やばい。
ここは優冬くんの実家のソファだ。
優冬くんの部屋のベッドじゃない――いや、そこで赤くなるのもあれだけど、とにかく今は二人だけじゃないんだから。
「赤くなるってことは、少なくとも嫌なこと思い出してるんじゃないでしょ。……嬉しいよ」
(……あ……)
そっと人差し指の関節のところで頬を突かれ、如何に自分の思考が優冬くんでいっぱいだったかを知る。
そうだ。
ここは、春来のことを思い出していい場面だ。
だって、前にも経験したことだからだ。
ソファにご両親と向かい合って、その時隣にいたのは春来だったことを。
そこからずるずる、昔の思い出が蘇るのも必然とも言える。
「……優冬くんの意地悪で、脳が忙しいんだよ」
でも、それは起きなかった。
「え、俺、意地悪じゃないよ。めぐに激甘でしょ」
「……激甘すぎるのが、最早意地悪なんです」
幸せなことだ。
甘く甘く、意地悪なほどに優しい。
おかげで、ほんの少し前に起きた人生最大に嫌なことを思い出す暇がない。
「こんなに幸せそうな優冬は、初めてだな」
「そりゃ、こんなに幸せだったことないからね。めぐのおかげ」
自分が幸せを感じたその瞬間に、相手もそうだと告げられるのも、なんて貴重な体験なんだろう。
――赦し。
それが優冬くん自身の為だというなら、きっと。
(……プロポーズ……だったのかな)