引きこもり婚始まりました
春来が来るまで不安だから――だから、私の方が春来の代わりだと思っていた。
でも、違ったんだ。
あの時から優冬くんは、私だけを望んでいてくれた。
「申し訳なく思わないで。めぐには感謝しかない……って、思い込もうとしてた。言い聞かせてたんだ」
――めぐは、女神様だから。
「俺なんかが、男して好きになっちゃいけない。手の届かない……手を伸ばそうなんて、発想すらない存在なんだからって。でも……やっぱり無理だった。そう認めた時には、もう遅すぎて」
ただの鈍感すぎる人間だ。
救うどころか、余計に苦しめたことだって何度もあっただろう。
何度も何度も、いつも春来の側にいるたびに。
「こんなことが起きて、喜んだよ。今しかないって思った。まさか、母さんがこんな計画立ててくるとは思わなかったけど。……ラッキーだと思ったし、チャンスでしかなかった。俺はそんな最低なこと考えてたんだから、めぐが泣いてくれることはないんだよ」
首を振るしかできない。
だって、最低なんかじゃない。
どう考えても、私は女神様なんかじゃない。
「……最低なの、私だよ……」
「俺にはそう思えないけど? ……今でもやっぱり、女神様だよ。でも、ちょっと前には考えられないくらい近くにいて、付き合って……めぐが幼馴染みでもお姉さんでも、兄さんの彼女でもなくなって、ここに来てくれてから、すごく感じる」
こんな自分勝手な女神様がいるわけない。
私は、ただの――……。
「本当は泣き虫なんだな。こんなに、表情くるくる変わったっけ。結構、めちゃくちゃなとこもあるんだ……なんていうか、そういう人っぽいところを見れたり触れたりして、思ったんだ」
――ただの、女、で。
「可愛いなって。そう思ったら、もうアウトだったよね。手の届かない女神様に、そんな感想出てこないもん。……完全に男としての感情を、俺はめぐに抱いてるんだ。本当はきっと、ほぼ最初から」
『……守らせてくれる……? 』
ああ、あれもプロポーズだったのかもしれない。
「……禁忌、だったのかもしれないね。女神様が女の子でもあるって知ってしまったら、戻れるわけがないんだから」
「……め、女神云々は大袈裟だとしか思えないんだけど、でも、あの。……そんなに想ってくれてありがとう」
そこは置いといて、ひたむきに想ってくれるのは嬉しい。
「子どもの頃、言えなかったこと言うね。……兄さんじゃなくて、俺を選んで。俺なら、兄さんにできなかったことをしてあげられる。俺の方が絶対に君に相応しいって、今なら確信できる」
――俺と、結婚してください。
「……はい……」
『……比べてよ。俺と、兄さんと』
(……そう、だったんだ)
優冬くんと春来は、全然違う。
兄弟だからというより、別の人間なのだから当たり前――それを比べるなんて、と。
優冬くんの腕の中で、どこかそう思っていた。
でも、違ったんだ。
私が間違っていた。
優冬くんにしてみれば、比較すらされないことの方がずっとずっと苦しかったんだと思う。
比べられさえすれば、勝てる自信があったんだろうに。
「優冬くんの方が好き」
敢えて失礼で調子のいい告白をしてみると、息を呑む音が聞こえて少しの間を置いて――蕩けるような甘い笑顔が広がる。
このうえない甘さに隠れて、見てはいけない毒々しさを見てしまった気がして目を閉じる。
気のせいではない――と思う。
ただ、私が摂取しても問題はないものだ。
――その毒性が何に分類されるのか、わざわざ調べたりしなければ。