引きこもり婚始まりました
(……暇だな)
リモートワークでできることに限りがあるのか、ここ数日暇なことが多かった。
それにしても今日はなかなか時間が経たなくて、キッチンへふらふらと向かう。
そういえば、今日は優冬くんを見ないかも。
優冬くんが暇だということはないだろうけど、要領がいいのかよくウロウロしてるのに。
もちろん、休憩という名目で私の様子を見に来てくれてるんだろう。
今日は、私がお茶に誘ってみようか。
「優冬くん? 」
「入っていいよ」
いつもなら出迎えてくれるのに、タイミング悪かったかな。
そう思って細くドアを開けると、逆に気を遣わせてしまって慌てて駆け寄ってくれた。
「ごめん。ちょっとバタバタしてて」
「ううん。忙しいのに、私こそごめんね。お茶置いとくから、よかったら……」
「やだ」
ドアの隙間からそっと私の手を引っ張って、身体が中に傾いた瞬間抱きしめられた。
「せっかく来てくれたんだから、補給させて。めぐ不足でどうにかなりそう」
「……朝まで一緒だったよ? 」
口ではそう言いながらも、優冬くんの胸にくっついてしまうと私の方が彼を補給してる。
「この前も出社したのに、どんどん要求が増えてくんだよね。仕事中に、めぐといちゃいちゃする余裕がなくなる……」
「……えっと。何か、手伝えることあるなら……って、あるわけないよね。せめて、家のことはやっとくから……? 」
そんなに目を丸めてじっと見つめられるほど、家事やってなかったかな。
まったくってことはないけど、何もかも優冬くんの方が丁寧で上手すぎて、任せきりだったかも。洗濯は自分でやってたけど、それにしたって――……。
「違うから。そっちにびっくりしたんじゃない。……手伝ってもらえること、あるよ。本当にいいの? 負担になるんじゃ……」
「今日、すごく暇なんだ。そ、それに、二人でやって早めに終わったら、その」
「いちゃいちゃできるね。でも、その申し出自体が可愛くて仕事したくなくなる……って、うん。分かりました。頑張るから、その終わった後のご褒美ってやつ、約束だよ」
(……ご褒美なんて言ってないのに)
――寧ろ、私のご褒美になるから黙っておくけど。
・・・
「うん。今日はここまでしかしない」
「……本当によかったのかな……」
任せてもらえた仕事そのものは、簡単で単調なものだったけど。
見せられた情報は明らかに社内機密で、とても他人に見せていいものだとは思えなかった。
「めぐが悪用しないなんて、信用してるって言うのもおかしいくらい分かってるから。……それに、遠くない将来、戸籍上も他人じゃなくなるしね」
「か、家族でもダメなのでは……」
「そうだね。でも、もし公私ともにパートナーってことになれたら、問題ないんじゃない? ……あ、でも、プライベートでは女神様だから、パートナーっていうと畏れ多いな……」
「ひ、引っ掛かるとこ違う……! 」
でも、もしかして、それって――。
「気楽に考えてみて。もちろん、今すぐどうってわけじゃない。今日みたいに暇な時だけでも助かるし。こうやって側にいてくれるだけで、俺のモチベに貢献してくれてるし……誘惑も多いけど」
悩むところが変すぎる。
つまり、優冬くんはまったく悩まずに決めてしまってて、後は私の気持ち次第。
何も分からない人間がいきなり現れても、周りが迷惑だとは思う。
でも、春来の仕事も優冬くんに振られ始めた今、私にもできることがあれば嬉しい。
「何はともあれ。主に俺がお待ちかねのいちゃいちゃタイムでいい? ……ほんと、待ち遠しすぎて気が狂いそうだった」
優冬くんは分かってない。
私だって、優冬くんが教えてくれるたびに顔が少し斜め上にあって、私の高さに合わせて屈んでくれて、もっと近づくたびにちょっと気が狂った。
ほんのちょっと、だけど、確実に綻び、狂い、そのままきゅっとより強固に結びつく。
「……うん……」
――もう二度と、けして真っ直ぐには解けないように。