引きこもり婚始まりました
ここは、何だろう。
最適の温度、ううん、ほんのちょっと肌寒くて、薄いブランケットと優冬くんの体温があるとものすごく心地いい。それがないと、肌寒くて悲しくなる。
「……? 」
ベッドの上、抱っこされて。
少し上にある優冬くんの唇が、クスッと音を立てた。
「ごめん。可愛いすぎて笑っちゃった」
「……な、何をいきなり……そして、意味分からないよ」
バッと反射的に起き上がった身体をやんわりと自分の胸に戻しながら、優冬くんはなおも笑う。
「俺も分からない。なんで、そんなに意味不明に可愛いの」
「……恋は盲目すぎるのでは」
好きでいてくれるのは伝わってるけど、あまりにもその愛情が私のいろんなところを補って補修しまくってくれていて心配になる。
「あと、幸せだなって。めぐがこんなに近くにいて……それを日々更新してるって実感してる。今まではその幸せに追いつけてなくて、夢みたいだって気持ちの方が強かったから。すごく幸せ」
――幸せ。
心からそう思ってくれてるのが伝わる、甘い甘い笑顔だ。
(この笑顔を壊したくない)
特に何もしてないのにそんなに喜んでくれるんだから、意識すれば、もっともっと幸せを感じてもらえるはず。
「今度の食事会、ちょっと怖いけど楽しみ。嫌な思い出もあるだろうから、もっとカジュアルなところを提案したんだけど大丈夫かな。失礼じゃなかった? 」
「全然。うちもその方が気楽だと思うし……優冬くんの言うとおり、できるだけ前回のことを連想させたくないし。調子いいかもしれないけど、いっそ、これが初めてだって私も思いたいから」
優冬くんと、双方の両親の顔合わせ。
メンバーはほぼ同じになるから迷ったけど、寧ろここでギクシャクしておかないと、この先余計に不安になると思って承諾した。
「よかった。おばさんとは、よくやり取りするんだけどね。やっぱり、おじさんはちょっと怖いな」
「お母さんと? ……嫌なこと言われなかった? 」
「まさか。最初はやっぱり、すごく謝られてたけど。最近はね、今日のめぐはこんなふうに可愛かったーとか、そういう報告してる」
(……どうりで、私には何も言ってこないはずだ)
食事会のことも、ほとんど何も聞かれずにあっさり日取りが決まったし。
優冬くんの溺愛ぶりに、安心してくれたのかも。
「な、なに、その報告」
「心配なんだよ。めぐには直接聞きづらいだろうし、めぐも大丈夫って答えるでしょ。でも、俺がめぐは元気ですって答えるのは……申し訳ないから。代わりに、俺から見ためぐがどれだけ可愛いか……伝わればいいなって」
優冬くんのおかげで、元気なのに。
そう答えてもらって、全然構わないのに。
「じゃあ、今度は絶対冷やかされるね」
「うん。でもそれも、俺には夢だったから」
ずっと背負っていくのかな。
関係ないっていうのは、優冬くんを逆に傷つけてしまうから言えないけど。
「そんなの、すぐに叶うよ」
「……だね。あの日、めぐが来てくれてから、まだそんなに経ってないのに……俺の夢、どんどん叶ってく。幸せすぎて怖くなってたけど、もうそんなこと言わない」
――俺に、君を幸せにさせてください。
「他の誰にもできないくらい、幸せにする。必ずね」
「……う、も、もう幸せなんだけど……」
赤くなった頬の熱を確かめるみたいに、長い指に撫でられる。
そうすれば当然、私の頬はもっと朱を帯び、体温は更に上がってく。
「めぐはそう言ってくれるけど、ご両親は心配したままだよ。ここしばらくで起きたことを思えば、当然だ。……だから、せめてそう誓わせて」
誓いのキス。
ベッドの上で、式の前に。
でも、不謹慎とも気が早いとも思わない。
――私は、幸せだ。