引きこもり婚始まりました
(……あぁぁぁ、変な疲れが……)
いえ、別に何もしてませんけど……!!
道端で、誰にともなしに心のなかで盛大に言い訳を始めた。
だって、あの後も。
『……早く帰りたい。早く終わらせて帰りたいけどまだ全然終わらないし、終わらせる為にはめぐが不足して力が出ない……』
(……あんぱんじゃないんだから……)
訳分からないことをブツブツ言いながらクスンと拗ねては、甘えるように首筋に口づけられた。
耐えられないと首を振れば、笑ってそっと唇を塞がれ、本当にもう立っていられなくなる寸前で、寂しそうにしながらもキスが止んだ。
『〜〜っ、そんなことしてたら、帰るのどんどん遅くなるよ……!? 』
唇が解放されたおかげで、どうにか抗議することは可能になった……けど。
果たして、それにどれくらいの効果があるのか疑問だ。
『……ご褒美は……? 』
『……な、何か準備しとく』
(……これは……)
今宵も激重甘モードになりそうだ。
『めぐの他に、何の準備も要らないよ。……受け取ってくれるって約束してくれたら、それで俺は幸せ』
『……っ』
痺れたまま、気づかないでいられたらよかったかな。
でも実際には、意識せずにはいられなかった。
軽く唇が触れるだけで終わると思っていた首筋が、今どうなっているのか。
無防備に晒していたのはそんなこと思いも寄らなかったからじゃなくて、それでもいいと判断したからで。
『遅くなるといけないから、めぐは先に帰ってて。送れないの悲しいけど、これ以上は困らせちゃうし。何かあったら、すぐ連絡してね』
『だ、大丈……』
『外は狼さんだらけだから、気をつけて。あ、それから。……上着、忘れないようにね』
名残惜しそうにもう一度口づけられ、確信する。
薄着でいるのが恥ずかしくなるような。
最近ようやく薄くなったと、どこかほっとしてたのを見透かされたように、再び濃く上書きされた、それを。
・・・
そんなわけで、肉体的疲労よりも精神的な消耗が激しい。
(……困る……嫌じゃないからとっても困る……)
ふらふらしながら会社を出て、駅へと向かう。
仕事は簡単じゃなくなってきたけど、任せてもらえれば嬉しいし。
何より、優冬くんが喜んでくれるのを見るのは私も好き。
好きな人といちゃいちゃする時間だって、大好きだ。
(とはいえ、これはやば……)
「……萌ちゃん? 」
「え……っ? 」
久しぶりに優冬くん以外の男性に名前で呼ばれて、しかも「ちゃん」付けだったから余計に驚いていると、そこには――……。
「……修司くん……」
――元彼……初めて付き合った人が、懐かしそうに目を細くして立っていた。