引きこもり婚始まりました




二つ年上の先輩。
部活は違ったけど、体育館でよく顔を合わせたことから始まって。


「びっくりした。久しぶりだね」

「……ですね。びっくりしました」


付き合うことになった時は、すごくドキドキしたな。
初めてだったし、憧れの先輩が彼氏になったことで舞い上がって、何が何だか分からないうちに自然消滅した気がする。


「なんで、敬語になるの」

「先輩だったなーって、思い出して」


(好きだったなぁ……懐かしい)


恋に恋をしていた。
まさにそんな感じだったけど、「ちゃんとした初恋」というものがあるなら、それは修司くんとだった。


「そういえば、聞いたよ。すごい人と結婚したんだって? その指輪。噂、本当だったんだね」

「うん。修司くんこそ、指輪」

「そう、俺も去年。値段は全然違うけど」


道端で話し込んだのは、彼の指輪が確認できたからだ。
お互い既婚者。何も起こりようがない。


「……奥さんは、最高に嬉しかったと思う」

「だといいけど。頑張ったもん」


ここにいない人への愛情。
それがこんなにも表情に出るって、本当に愛してるんだな。


「笑わないでくれる? ダサいのは分かってるんだから」

「ち、違うよ。愛し合ってるんだな、と思って微笑ましかっただけ」


(……私は……)


私は、今、修司くんの――初めての人の瞳にどう映ってるんだろう。


「……あのさ。実は、ずっと気になってた」

「……え? 」


何となく気まずくて、別れてからは顔を合わせることもなかった。
私は子どもっぼく避けていたし、今思えば春来と優冬くんがそれを手伝ってくれてたんだと思う。


「あの頃、何もかも初めてだったからさ。萌ちゃんのこと、いろんな意味で傷つけてばっかりだった。ずっと謝りたくて」

「そんなこと……え、初めてだったんですか? 」

「声大きいから。誤解され……じゃなくて、合ってるけど。恥ずかしい」

「だ、だって。先輩、そんなこと一言も……」


「格好つけたくて、言わなかったんだよ」って苦笑いが、どことなく切ない。
もちろん、この込み上げてくる気持ちのどこにも、もう恋心は存在しないけれど。
すっかり大人になってしまった先輩が、初めて同年代に見えたようで。


「お互いさまだよ。私も、正直何も覚えてないくらい、修司くんを傷つけてたはず」

「そこはちょっとくらい覚えといてくれない? 一応、初めての彼氏なのに」


恋をするだけで必死だった。
「大好き」以外、何もできなかった。
きっと私も傷つけられたのだろうし、事実として初めては修司くんだった。
それでも、嫌な記憶は何も残っていない。


「私にとっては、いい初恋だったからだよ」

「……そっか。安心した」


それから、お互いに「ありがとう」を言い合って別れた。

会えてよかった。
好きになった人の幸せそうなところを見れてよかった。

――本心で、それだけだったのに。








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