引きこもり婚始まりました
気分は晴れやか――のはずだった。
優冬くんの愛情激重モードは予想していたし、そんな出来事に関わらず、優冬くんは相変わらず優しくて甘くて――歪んだ愛情を私に注ぎまくる。
そんなの分かっていたはずなのに、どうしてこんな気持ちになるんだろう。
――私はまだ、甘く見ていた。
先にシャワーを浴びてきた優冬くんが、家事の邪魔をしてくる。
「……か、髪濡れてるんじゃない? 」
「そうかも。一分一秒も惜しくて、さっさと済ませちゃったから。でも、あれ? なんで分かったの。めぐは今、後ろから抱きしめられてるんだよ。こっち、見えてないのに」
耳に口づけられ、優冬くんはお見通しだと悟る。
水滴が私の耳で飛び散ったのも、その拍子にピクンとしてしまったのも、唇で拭かれてまたゾクリとしてしまったのも全部お見通しで、きっと優冬くんの意のままだ。
「つ、疲れてるんだから、ゆっくりしてていいのに」
「可愛い奥さんが、食事準備しててくれたのに? おまけに、俺の女神様は料理好きじゃないみたいなのに。頑張ってくれたの想像したら可愛いすぎて、ゆっくりお湯になんて浸かれないよ。めぐが一緒に入ってくれるなら別だけど」
(……可愛い奥さんとか女神様とか、立場忙しい……)
そしてどれも恥ずかしいから、妙なダメージを食らう。
「まあ、そしたらごはんどころじゃないね。めぐも疲れてるのに、ありがと」
「ううん。私は早く帰ったし……」
「ちょっと遅くなっちゃったでしょ。なのに、こんなことまで……めぐは、本当に優しいね」
(……っ)
今度はぎゅっと正面から抱きしめられて、どちらにしても彼の顔は見えない。
労るように頭を何度も撫でられながら、恐る恐るぎゅっと抱きしめ返す。
(……どうするのが最善……? )
問い詰めた方がいいんだろうか。
それとも、盗聴器を探して突きつけた方がいいのかな。
そのどれも、したくない。
いい方法だとは思えないし、私自身が嫌だった。
でも、このままでいいわけもない。
ずっと逃げてたけど、でも……。
「優冬くん」
「ん? あ、めぐの好きそうなカクテル買ってきたよ。期間限定、好きでしょ」
パッと腕を離して、にっこり笑って。
私がそれを切り出そうとしたのを、始めることなく終了させる。
今までも似たようなことは、度々あった。
「心配すること、何もないよ。信用ないかもしれないけど、私……」
「信用ないなんて。めぐのことは信じてるし、君の気持ちも知ってる。愛されてることも、ちゃんと分かってるんだ。そんな顔しないで」
意外だった。
過去の春来を選んだ経験――優冬くんの想いに気づきもしなかったことから、どうしても私を信じられないでいるのだと思ってた。
「ただ、めぐは優しすぎるから。きっと、女神様ってそうだよね。人間みんなに優しい。ううん、狼や悪魔にすら、君は優しくすると思う。俺の心配は、そういう心配だよ。めぐは何も悪くない。尊すぎるだけ」
「な、何を言って……」
また壮大な話になった。
冗談じゃなく、本気で言っていることは最早疑ってもないけど。
「だから、外は危ない。女神様は下界に降りたがるものだし、無理に制限しようとは思わないけど……どうしても心配なんだ。だって、事実でしょう? 」
――君が外の世界に迷い込んで、傷ついたのは。