引きこもり婚始まりました





たとえお膳立てをしたのが優冬くんであっても、実際に浮気をしたのは春来であって、希望していた告白を私にすることなく彼女ができたのは戸村くんだ。


「……寂しいよ。優冬くんがいないと」

「うん。ごめんね。今日はゆっくり過ごそうか。あ、もちろんたまにはお出掛けもしようね。俺はあんまり詳しくないから、めぐの行きたいとこどこでも。……って、ダメだ。どこでも連れてってあげるけど、だからってめぐに任せてばかりじゃなくて、俺からも提案しないと。めぐの好きそうなの……」


掘り起こそうとしているのが記憶なのか、情報なのか。
テンション高めに思い巡らせている優冬くんは、何かにつけ「ごめんね」と謝る彼と対照的なようで――どちらも根底に何か哀しいものがある気がして、見ていて泣きたくなってしまう。


「先輩、謝ってくれたよね。正直言うと、当の私には謝られた理由がよく分からない」

「……めぐは優しいから。それに、恐怖で記憶が薄れてるのかもしれないよ」


話を戻すとぐっと優冬くんの声が低く小さくなったけれど、やっぱり今これを流していいとは思えない。


「きっと、良くも悪くも、私にとってはその程度のことだったんじゃないかな」

「そんな……」

「でも、もしかしたら優冬くんには分かるのかも」


自分を雑に扱ったつもりもない。
憧れの先輩との経験をそんなふうに思う私こそ、薄情なのかもしれない。


「先輩がずっと気にしててくれた気持ち。私よりも、優冬くんの方が分かってるのかもしれないね」

「……そう、なのかな。でも、確かにめぐを傷つけたのが俺だったらと思うとゾッとする。きっと、自分を許せない。……どっちがより自己嫌悪するんだろうね。めぐを守れなかったって辛いのと」


(……優冬くんの愛情は(いびつ)だ。間違ってるところもあるし、正しくはないかもしれない。でも……)


「誰にも傷つけられてないよ。春来のあれは、まあショックだったけど……でも、おかげで今優冬くんと一緒にいられる。先輩のこともあって、今があるから。大事に思ってくれるのは嬉しいけど、私の過去に敵意をもたないでほしい。優冬くんが苦しんだり、手を汚すのは悲しいんだ」


優冬くんが初めての相手がだったら、どうだっただろう――……。
そんなことを考えても無意味だと、すぐに止めた。


「……そうだね。兄さんも他の奴らも俺は嫌いだし、理解できない。めぐはそう言うけど、やっぱり君が悲しんでたのは事実で、俺はそれを忘れられないと思う。だから、そいつら全員憎いよ」


過去は変えられないし、きっと優冬くんは。


「でも……たとえ、あの頃めぐと付き合えたとしても、俺はめぐを傷つける勇気はなかったと思う」

「……うん。でも、今の大人になった優冬くんといられて、すごく嬉しい。きっとね、優冬くんが言うような女神様なら……もっと強いから。それも、信じてほしい」


――いつだって、私を大事にしてくれようとする。






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