引きこもり婚始まりました
「……そんなこと知ってる」
こつんと、優冬くんの額が肩に落ちてきた。
「めぐは強くて綺麗だ。だから、女神様だって心底思ったし、それは今でも変わらない。でもね、本当にそれだけだったら……この気持ちが尊敬とか憧れとか、崇拝だけで終わってたら、俺はここにいないんだよ」
「え……? 」
女神信仰なんて、春来は宣ったけど。
なんかもう、それが染み付いて自分でもどこか受け容れてしまうという、おかしな精神状態だったかもしれない。
そこできょとんとする私に笑って、優冬くんが顔を上げた。
「だって、そうでしょ。本気でめぐをただの女神様だと思ってたら……抱けないよ。でも俺は、我慢できなかった」
ただの女神様。
何だかおかしな表現だけど、私は単に崇拝されていたわけじゃなかった。
「言ったみたいに、子どもの頃はね。君に触れるなんてどうしても……特に初めてを奪って心も身体も傷つけるなんて、恐ろしくてとてもできなかった。でも、同時に狂おしいくらい」
――本当は、俺だけでいてほしかった。
「そんな矛盾が起きるのは、めぐを女の子だと思ってるから。最初からずっと、そうでしかなかった。でも、俺の側にいてくれためぐは、やっぱり女神様で……大事にできないなら、手を伸ばすべきじゃないって考えも変わらないし……正しい、と思う。でも……さ。めぐは、どうして……」
初めて歯切れが悪くなって、思わずじっと見つめるとますます困惑したように続けた。
「……その。どうして、俺に盗聴されたままでいてくれるの? 」
「……っ、げほっ……」
(……まさか、そう来るとは……)
「だって。外出する時も……特に俺と離れる時は、わざと荷物増やしてるよね。それって、どれだか分からないけど、とりあえず目ぼしい物持ってけば、どれかに付いてるって思ってるから……だよね。それなのに、どれに付いてるか探すことはしなくて。そんな面倒なことまでして、どうして」
「……それで、信じてもらえるならって。優冬くんが安心できるならって思ってたけど、違ったみたいだね」
ゲホゲホと咳き込む私の背中を擦ってくれるのも、何だか――いや、ものすごく変なんだろうけど。
「ん……あのね。俺こそ、信じてもらえないかもしれないし、それが当然なんだけど。別に、それで興奮するとか、そういうんじゃなくて。めぐのことを知りたくて、守りたくて……ごめん。忘れて」
それでも、今この話題を止めてしまうわけにはいかなかった。
「忘れない。というか、私も知ってるから」
それがいいことだとは思わない。
それでも、それで得た情報は全部私の為に使われるって知ってたから。
「でも、いつか……間違ってもいいから、優冬くんの感覚を試してほしい。正解とか不正解とか関係なく、きっと嬉しいと思う。それにね、私も誓ったんだって忘れないで」
――この人を愛させてください。
私だって、神様にそうお願いした。
「……女神様が言うなら、間違いないね。じゃあ、俺にできることって……」
――もっともっと、女神様に喜んでもらわないと。