引きこもり婚始まりました





優冬くんは、私に欲しがらせるのが上手い。
別に、そこまで意地っ張りでも照れ屋でもないつもりだけど、私が素直になるように誘導するのがあまりにも上手だ。


「なーに。焦らしてないってば。寧ろ、急かしちゃってるかも」


優冬くんの肩に掴まった手が、力が抜けてするりと腕まで滑ったタイミングでキスが止んで。
それでどうして急いでいるのかと文句を言いたいのに、言ってしまえば私こそスピードアップを強請ってるみたいで何も言えない。


「はい」


掌を見せられても、心地よい程度の酸欠状態では判断能力に乏しい。


「お姫様抱っこも憧れるけど。でも、よく考えたら、あれってちょっと強引じゃない? 抱き上げる時点で、なんか強制してるみたいでさ。だから……はい」


(ああ……ほら)


掌を見せて私に選ばせてくれるのは、もちろん優しさで愛情だ。


「あはは。不満そうなの可愛い。ごめんね、臆病で。めぐに嫌われたくないのは大前提として、可能な限り希望に添いたいし、めぐに喜んでもらいたいんだ」


指先だけ近づけたのを、笑ってきゅっと繋いで。
その後はリードしてくれるのは、そう意地悪じゃないけど。
私の気持ちなんて分かりきってるくせに、選ばせてくれること自体意地悪だ。
優冬くんの背中の真後ろ、手を引いて歩くには少し歩きにくい位置に立って着いていくのは。


「到着。……こっち、来てくれる?」


――行き先がベッドだと知っているから。


「ありがとう。おいで」


言ったとおり、優冬くんは私を先に押し倒したりはしなくて。
せっかく既に繋いでいた手をいったん離して、自分が先にベッドに座ると、また私の意思に委ねる。


「せっかちなの可愛い」


そうすれば、私は自分から側に寄って、優冬くんの首に腕を回してしまうから。

そしたら、もう。


「……だって」

「だって、“春来と違って、優冬くんが押してくれないから”? 」

「前半は言ってない……! っ、ん……」


――絡め、取られてしまう。


「でも、思ったでしょ。いいんだよ、それで。何度も言うけど、比べてもらって全然構わない」


春来も、けして無理やりどうこうなんてなかった。
それは当然といえば当然なのに、そう言われるとつい比較してしまうのも、最早いつもの――毎度のことだったりして。


「めぐは恥ずかしがりだから。結構しっかり誘ってくれた直後に、急に引いたりするよね。それはねー、小悪魔とかあざといとか、そんなんじゃなくて。たぶん、春来と付き合ってからの癖……かな」

「……そ、それは違うと思う……! 」


(た、確かに春来の場合、同意を得た後は、わりと強引だった……かもしれない)


いや、別に乱暴されたわけじゃない。
ただ、なんというか――そっと手首を握ったり、わざとゆっくりその手をシーツに横たえさせたり。


『なーんか今日、いいこだな。……もしかして、結構待った? 』


そういうプレ……じゃない、パフォーマンスっていうか、そんなのが多かった気がしないでもないけど――……。


「え、なんでそこ隠すの。先輩のことは納得してたのに……もしかして、初めてよりも特別だったりする? 」


――兄さんとのこと。


「……〜〜っ、優冬くん……!? 」


そこでシュンとしたのも、「兄さん」って春来を呼んだのも、切なそうに「初めて」やら「特別」を発音したのも全部。それこそプレイだ、これは。


「からかってないよ。……本気」


ふっと吐息混じりの微かに笑った音が側で聞こえたと思ったら、チリ……と甘く耳朶を食まれ。
もう諦めて、確信するしかない。


「前も言ったね。忘れたりすることなんかない。きっとめぐの中に染みついて、行き渡って……今のめぐを形成してることも分かってる。君のことなら、それも含め愛しいよ」


怯えてるみたいに見えるんだろうか、頭を撫でる手つきは、打って変わって子ども相手のものによく似ていた。


「でも……今はね。こうも思ってる」


――それなら、俺はどう女神様を蝕めるんだろう。














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