引きこもり婚始まりました




心臓がドクンとしたのを隠す為に、苦笑いを零す。


「優冬くんと付き合うって、そんなネガティブなことじゃないよ」


確かに、彼の思考を理解することはできても、共感はしにくい。
ああ、だからこれに行き着くのかなと思考回路を辿って納得したって、正直心が追いつかないまま愛情に溺れてしまうのも常だ。


「優冬くんは信者なんかじゃない。私の恋人で旦那さんで……幼馴染みだった人なの。そんなに先回りして、私を幸せにしなくても大丈夫」

「ダメだよ、そんなの。女神様が地上に降りてきて、汚されて苦しむだけ苦しむなんて。……全部、受け取って。ここで得られるもの、全部。それでもまだまだ足りなくて……もっともっと、あげたくて仕方ないのに」


(元々、地上にしかいたことないのに……)


せめて、天界出身(?)で地上で人間に弄ばれた設定だけでも、何とかならないものだろうか。


「受け取ってるし、守られてる。優冬くんに大切にされて、もう幸せだから」

「……束縛、嫌になった……? 」


(束縛してる自覚はあるんだね……)


そうすると、それは罪悪感からでもあるのかな。
悪いと思ってるから、もっと幸せにしたいって思ってしまうのかも。


「そうならないように、自由もくれてるんでしょ? 」

「……ん。束縛や独占欲の上に成り立った、作り物の自由だよ。気づいてるのに、なんで……」


作り物。
確かに、これは優冬くんによって作られた幸せだ。


「偽物じゃないって知ってるから」


でも、安心してほしいという気持ちはあるけど、閉じ込められて一方的に注がれる愛情だとは思わない。


「……めぐ……。……うん。そこまで分かってくれてるなら言うけど。あのね。女神様には理解できないかもしれないけど、めぐが間違って堕ちてきちゃったこの世界は悪い奴らばかりなんだよ。おまけに、そういう奴ほどめぐの清らかさに惹かれる性質がある」

「……それは大分語弊があるというか、何か根本的に間違ってる。……優冬くん」


両頬に触れると、なぜかあり得ないくらいびっくりしたっていう感じで、優冬くんが硬直する。


「好き」


伝わってほしい。
何かを与えてもらえるから、好きになってるわけじゃないって。


「私は、ただ優冬くんが好きなだけ。私こそ汚い部分だってあるし、普通の人間だよ」

「……そうは思えないけど。でも、本当にそうなら、ただの女神様よりも余計に尊いよ」


(……なんか、また壮大な話になった……)


そんなんじゃないのに。
もしや、女神様より上の存在に格上げされたらどうしよう。


「本当にめぐがただの人間で、こんな俺を好きになってくれて……好きでいてくれるままなら。これ以上どうしたら喜んでもらえるのか分からなくて、分からないから余計にもっともっとしてあげたくなる。……だからね」


――俺の全部、君のだよ。


「要らないとかナシね。俺をめぐ信者にしたんだから、責任もって受け取って。俺の身分も肩書も、愛情もぜーんぶ、だよ」

「……な、何ですか、それは……意味分からな……」


(……これは……改善した、のかな……? )


とりあえず、同じ人間であることは理解されたんだろうか。それとも、悪化してる……?


「分からなくていいよ。っていうか、たぶんこの先もめぐが完全に分かることなんてないと思う」


――君が何であれ、俺がどれだけ愛してるかなんて……さ。


「ってことで。まずは、今夜もよろしくお願いします」


抱きしめられていて、押し倒される感覚はほぼなかった。
だからこそ、急に優冬くんが真上にいたみたいでぎょっとしたのを、彼は楽しそうに笑って。
無防備どころか、意識が集中していた首筋に顔を沈めた。


(分かってはいるけど、想像以上も甚だしい恐れ……)


最早知り尽くされた弱点を擽りながら、チラリと向けてくる視線は意地でも無視して。

――私はそれ全部、幸せだと思うことにした。











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