引きこもり婚始まりました
「ただいま」
翌日、夜。
遅くなって帰宅した優冬くんを見て、ほっと息を吐いた。
「遅かったね」
「ん。……あ。もしかして、待っててくれてたの? ごめんね。連絡すればよかった」
「ううん。遅くなるのは聞いてたし、待ってなくていいとも言ってくれてたよ。お疲れさま」
思ったよりも遅かったのと、私は随分前に帰されたから何となく心配で。
バタバタと玄関に走る私を、愛しそうにぎゅっと抱きしめてくれた。
「どうしても、今日中に終わらせておきたくて。……可愛い奥さん見て、癒された」
女神様云々言わないあたり、結構無理したのかもしれない。
手伝えたらもっとよかったけど、そう言ってくれるのは素直に嬉しい。
「ところで、今日はどんな一日だった? 」
「どんなって。仕事中も、ほぼ優冬くんの目の届くところにいたじゃない。まだまだ、一人でいたら冷やかされるし、今日は私だけ早く帰ったから、何かそわそわしてたけど……」
(…………ん? )
何だか、おかしな質問だ。
普通の感覚からすると、本当に四六時中と言ってもいいくらい一緒にいたのに、なんでそんな質問を――……。
「……ま、まさか……」
「あはは。“まさか、盗聴やめたの?” ……なんて質問、破綻してるよ、めぐ。変なの」
(〜〜何から何まで、変なのは優冬くんですよ……!? )
「でも、当たり。今日は何も聞けなかったから、心配で心配で堪らなかった。めぐが何でもないことって認識してても、危険も狼も悪魔もこの世界にはうじゃうじゃいるんだからね。……本当に怖かったんだから」
(……クスンクスンって言いながら、ぎゅーってすることじゃない……)
いや、何もなくても抱きしめられるのは好きだけど。
盗……聞かないことが恐怖なんて、どう考えてもおかしい。
それで付き合うどころか結婚して、この旦那さまが大好きな私も、どうかしてるの確定かもしれない。
「……でも、めぐが俺を信じてくれたから。こんな俺を愛してくれたから、俺も進まなきゃって頑張った」
「……優冬くん」
それは、本当に大きな一歩だ。
何とか、今度はその狼や悪魔の存在を否定できればいいんだけど。
「でね。今日すっごく仕事頑張ったから、しばらくのんびりできそうなんだ」
「そっか。じゃあ、その間私にできること……」
(…………この手は何でしょう…………)
「もう、めぐは真面目なんだから。そんなの、君も一緒にのんびりするに決まってるでしょ」
腕の中にいるうちから、もう片方の手で緩く繋ぎ止められて。
「安心して。盗聴したりしないから」
「〜〜っ、二人で引きこもってるから、必要ないだけだよね……!? 」
抗議しようと噛みつくように近づいた顔をそっと捕まえて、軽く口づけられた。
「だって、これ以上安心な世界はないよ。めぐにも快適で居心地よくて……外なんかよりずっとイイって思ってもらえるように頑張るから。……ね? 」
「が、そ、そんなの頑張らなくていい……!! 」
キス自体は軽いのに、薄目で見つめられる視線はねっとり絡むように重くて。
優冬くんの妖しい瞳から目を離せないまま、カクンと腰砕けてしまいそう。
「でも、この為に俺は頑張ってきたんだよ。新婚さんだもん、引きこもってもいいよね」
「……その頑張りはいつから……」
……いや、よそう。
にこにこするだけで答えるつもりはないみたいだし、優冬くんの手が、私の服の裾のあたりでモゾモゾしてるし。
「あ、諦めてくれた? ……嬉しい。お返し、いっぱいするね」
――だから、ここにいて。俺の女神様。
ふざけた台詞を大真面目に激甘にされて、確かに諦めるしかない。
器用に裾から侵入しながら、もう片方の腕で固定されるように支えられ、そのうえ唇まで奪われてはこの事実しかもう分からない。
――もうしばらくこのまま、激重甘の引きこもり婚は続きそう……です。
【引きこもり婚始まりました・おわり】