ドSキューピットさまと恋のお手伝い!
11話 猛アプローチ!
【魚住千沙。ボクと同じ一年二組。今までは読書好きのガリ勉女って印象しかなかったけど、案外、恋には積極的なタイプなんだね。つくづく人は見かけによらないな】
ルカの失礼な分析はさておき、魚住さんは、たしかにものすごく積極的だった。
はたから見ているわたしまで焦っちゃうほどの、健気なアプローチの数々!
彼女のひそかな頑張りは、注目すればするほど、よく目に飛びこんできた。
あっ、ほら。
たとえば、給食後の昼休み。
魚住さんは、今日もうちのクラスまでやってきて、きょろきょろと教室を見回している。
「み、水谷くん!」
「ん? ああ、魚住さん」
「きょ、教科書、貸してくれてありがとう。いきなり借りちゃってごめんね。迷惑だった……?」
「ううん。今日は使う予定がない科目だったから大丈夫だよ。それに、困った時はお互いさまだから」
「ありがとう。水谷くんは、やさしいね」
「そう? 別に、フツウだと思うけど」
「そんなことないっ! やさしいの!」
「そっか? ありがとう」
「あのね、お礼にこれあげる。手作りの、クッキーなんだけど……」
「え? いやいや。大したことしてないし、こんなにもらったら、逆に申し訳ないよ」
「わ、私が、もらってほしいの!」
「そうなの?」
「あ、えと。た、たたた、大した意味はないんだけどっ……その、や、焼きすぎちゃったから、家族でも食べきれないし……もらってくれたら、助かるってゆうか」
「そう。じゃあ、いただくね」
きょとんとした顔でラッピング小袋を受け取る水谷くんに、見ているこっちまでドキッとしてしまうほど、ホッとしたように笑う魚住さん。
そして――そんな二人に、真冬の空気よりも冷え冷えとした視線を人知れず送る、ありさちゃん。
美人なだけに、無表情だとお人形さんっぽさが増して怖い!
「魚住さん、今日もうちのクラスに来てるね」
「二人とも図書委員なんだっけ。すっごく仲良いよねぇ」
「ねぇ。もしかして、あの二人って、付き合っていたりするのかなぁ」
ひいい!
今、クラスメイトの何気ない発言で、ありさちゃんの発する暗黒オーラが明らかに濃くなった!!
うう。
すべての事情を知ってしまっている身としては、すっごく胃が痛いよ……。
さすがに、心配になって声をかける。
「あ、ありさちゃーん?」
「…………」
ま、まさかのスルー!?
というか、あの二人の様子に釘づけで、わたしのことは目にも入っていないみたい。
「あ、ありさちゃんってば!」
「わっ!? なんだ、奈々か。いきなり大きな声出さないでよ、ビックリするじゃん」
やっと、大きな瞳がわたしを映しだす。
「あ、あのさ。二人で話したいことがあるんだけど、よかったら、ありさちゃんがヒマな放課後に遊びにいかない?」
「あー……ごめんね、折角だし遊びにはいきたいけど、しばらく難しいかも。演劇部、意外と忙しいの」
「そうなんだぁ……」
「うん。秋の新入生公演にむけて、練習してる最中なの。あたしたち一年生にとっては初めての舞台なんだ」
「そっかぁ、がんばって! 絶対に観にいくからね!」
「うん。ありがとう」
やっと笑ってくれたけれど、その笑顔はどこかムリしているように見えた。
うーん……。
やっぱり、水谷くんと魚住さんのことが気になって仕方がないのかなぁ。
*
六月。
通学路のアジサイが、色鮮やかに咲く季節になった。
けれども、ありさちゃんと水谷くんは、いまだに一言も話している様子がない。
【鏡見ありさは、どうしてメガネを頑なに避けつづけるんだろう。好きなのは、間違いないのに】
わたしとルカは、停滞しつづけている二人の仲に、頭を悩ませていた。
二人は、通路を挟んでいるとはいえ、隣の席。
話しかけるチャンスは、いくらでもあるはずなんだけど……。
観察している限り、ありさちゃんの方が、徹底的に水谷くんの方を見ないようにしている気がする。
ここまで水谷くんを避けているのには、なにか理由があるはずだ。
「じゃあ、また明日ね!」
なんとか二人で話す機会を持ちたいけれど、ありさちゃんは放課後になると、あわただしく教室を出ていってしまう。
舞台の練習で忙しいのは本当だろうけど、一刻も早く、この教室から出たがっているようにも見えるのはわたしの気のせいなのかな……?
ありさちゃんが吸いこまれていったドアの方をぼんやり見つめていたら、茜ちゃんから声をかけられた。
「やあ。ボーッとしてたけど、なにか考え事? もしかして、彼氏と喧嘩でもした? アタシが慰めてあげようか」
白い歯をこぼしていたずらっぽく笑う茜ちゃんは、今日もサラサラの黒髪でイケメンだ。爽やかだなぁ。
【ふん。こんな男女よりも、ボクのほうがよっぽどイケメンでしょ】
んん? なあに、ルカ。
もしかして、嫉妬しているの?
【はあ!? な、なにおめでたい勘違いしてんの!? キミの脳みそには生クリームケーキでもつまってるわけ? ほんっっっと信じられない】
だんだんルカに心を読まれることにも、抵抗感なくなってきたな。
なんなら、頭の中で会話できることを楽しんじゃってる自分がいる。
慣れってすごいなぁ。
「ううん。ルカのことでは、今のところ、悩みはないよ」
「ふふっ。相変わらず、ラブラブなんだね。でも、彼氏とは順調なら、なにか他の悩み?」
「実は、ありさちゃんのことなんだ。最近、なんだか元気がなさそうに見えるから、心配なの」
真相を告げるわけにもいかず、言葉をにごしてうつむくと、茜ちゃんは考えごとをするように腕を組んだ。
「あぁ。実はアタシも気になってた。最近のありさ、見るからに元気ないよね……。やっぱり、水谷のことに関係あるのかなぁ」
ドキッ。
ぽつりとこぼれた、聞き捨てならない言葉。
口の中で溶けちゃいそうなほど小さい声だったけど、わたしの耳には、ハッキリと届いた。
もしかして、茜ちゃんはなにか知っているの?
「茜ちゃん。ありさちゃんの元気がないのは、やっぱり、水谷くんのことに関係があるの……?」
まだ教室に残っている人たちには聞こえないように、声をひそめて。
すると、茜ちゃんの切れ長の瞳が、驚いたように見ひらかれた。
「ねえ、奈々。今から、ちょっと二人で話せる? 今日さ、珍しくバスケ部がオフなんだ」
ルカの失礼な分析はさておき、魚住さんは、たしかにものすごく積極的だった。
はたから見ているわたしまで焦っちゃうほどの、健気なアプローチの数々!
彼女のひそかな頑張りは、注目すればするほど、よく目に飛びこんできた。
あっ、ほら。
たとえば、給食後の昼休み。
魚住さんは、今日もうちのクラスまでやってきて、きょろきょろと教室を見回している。
「み、水谷くん!」
「ん? ああ、魚住さん」
「きょ、教科書、貸してくれてありがとう。いきなり借りちゃってごめんね。迷惑だった……?」
「ううん。今日は使う予定がない科目だったから大丈夫だよ。それに、困った時はお互いさまだから」
「ありがとう。水谷くんは、やさしいね」
「そう? 別に、フツウだと思うけど」
「そんなことないっ! やさしいの!」
「そっか? ありがとう」
「あのね、お礼にこれあげる。手作りの、クッキーなんだけど……」
「え? いやいや。大したことしてないし、こんなにもらったら、逆に申し訳ないよ」
「わ、私が、もらってほしいの!」
「そうなの?」
「あ、えと。た、たたた、大した意味はないんだけどっ……その、や、焼きすぎちゃったから、家族でも食べきれないし……もらってくれたら、助かるってゆうか」
「そう。じゃあ、いただくね」
きょとんとした顔でラッピング小袋を受け取る水谷くんに、見ているこっちまでドキッとしてしまうほど、ホッとしたように笑う魚住さん。
そして――そんな二人に、真冬の空気よりも冷え冷えとした視線を人知れず送る、ありさちゃん。
美人なだけに、無表情だとお人形さんっぽさが増して怖い!
「魚住さん、今日もうちのクラスに来てるね」
「二人とも図書委員なんだっけ。すっごく仲良いよねぇ」
「ねぇ。もしかして、あの二人って、付き合っていたりするのかなぁ」
ひいい!
今、クラスメイトの何気ない発言で、ありさちゃんの発する暗黒オーラが明らかに濃くなった!!
うう。
すべての事情を知ってしまっている身としては、すっごく胃が痛いよ……。
さすがに、心配になって声をかける。
「あ、ありさちゃーん?」
「…………」
ま、まさかのスルー!?
というか、あの二人の様子に釘づけで、わたしのことは目にも入っていないみたい。
「あ、ありさちゃんってば!」
「わっ!? なんだ、奈々か。いきなり大きな声出さないでよ、ビックリするじゃん」
やっと、大きな瞳がわたしを映しだす。
「あ、あのさ。二人で話したいことがあるんだけど、よかったら、ありさちゃんがヒマな放課後に遊びにいかない?」
「あー……ごめんね、折角だし遊びにはいきたいけど、しばらく難しいかも。演劇部、意外と忙しいの」
「そうなんだぁ……」
「うん。秋の新入生公演にむけて、練習してる最中なの。あたしたち一年生にとっては初めての舞台なんだ」
「そっかぁ、がんばって! 絶対に観にいくからね!」
「うん。ありがとう」
やっと笑ってくれたけれど、その笑顔はどこかムリしているように見えた。
うーん……。
やっぱり、水谷くんと魚住さんのことが気になって仕方がないのかなぁ。
*
六月。
通学路のアジサイが、色鮮やかに咲く季節になった。
けれども、ありさちゃんと水谷くんは、いまだに一言も話している様子がない。
【鏡見ありさは、どうしてメガネを頑なに避けつづけるんだろう。好きなのは、間違いないのに】
わたしとルカは、停滞しつづけている二人の仲に、頭を悩ませていた。
二人は、通路を挟んでいるとはいえ、隣の席。
話しかけるチャンスは、いくらでもあるはずなんだけど……。
観察している限り、ありさちゃんの方が、徹底的に水谷くんの方を見ないようにしている気がする。
ここまで水谷くんを避けているのには、なにか理由があるはずだ。
「じゃあ、また明日ね!」
なんとか二人で話す機会を持ちたいけれど、ありさちゃんは放課後になると、あわただしく教室を出ていってしまう。
舞台の練習で忙しいのは本当だろうけど、一刻も早く、この教室から出たがっているようにも見えるのはわたしの気のせいなのかな……?
ありさちゃんが吸いこまれていったドアの方をぼんやり見つめていたら、茜ちゃんから声をかけられた。
「やあ。ボーッとしてたけど、なにか考え事? もしかして、彼氏と喧嘩でもした? アタシが慰めてあげようか」
白い歯をこぼしていたずらっぽく笑う茜ちゃんは、今日もサラサラの黒髪でイケメンだ。爽やかだなぁ。
【ふん。こんな男女よりも、ボクのほうがよっぽどイケメンでしょ】
んん? なあに、ルカ。
もしかして、嫉妬しているの?
【はあ!? な、なにおめでたい勘違いしてんの!? キミの脳みそには生クリームケーキでもつまってるわけ? ほんっっっと信じられない】
だんだんルカに心を読まれることにも、抵抗感なくなってきたな。
なんなら、頭の中で会話できることを楽しんじゃってる自分がいる。
慣れってすごいなぁ。
「ううん。ルカのことでは、今のところ、悩みはないよ」
「ふふっ。相変わらず、ラブラブなんだね。でも、彼氏とは順調なら、なにか他の悩み?」
「実は、ありさちゃんのことなんだ。最近、なんだか元気がなさそうに見えるから、心配なの」
真相を告げるわけにもいかず、言葉をにごしてうつむくと、茜ちゃんは考えごとをするように腕を組んだ。
「あぁ。実はアタシも気になってた。最近のありさ、見るからに元気ないよね……。やっぱり、水谷のことに関係あるのかなぁ」
ドキッ。
ぽつりとこぼれた、聞き捨てならない言葉。
口の中で溶けちゃいそうなほど小さい声だったけど、わたしの耳には、ハッキリと届いた。
もしかして、茜ちゃんはなにか知っているの?
「茜ちゃん。ありさちゃんの元気がないのは、やっぱり、水谷くんのことに関係があるの……?」
まだ教室に残っている人たちには聞こえないように、声をひそめて。
すると、茜ちゃんの切れ長の瞳が、驚いたように見ひらかれた。
「ねえ、奈々。今から、ちょっと二人で話せる? 今日さ、珍しくバスケ部がオフなんだ」