ドSキューピットさまと恋のお手伝い!
13話 本当の気持ち
約束通り、ルカは、水谷くんのノートを元に完璧な手紙を作ってくれた。
『急で申し訳ないんだけど、
二人きりで話したいことがあります。
部活の前に、ちょっとだけでも話せないかな。
放課後、屋上前の踊り場で待っています。水谷』
几帳面で整った文字に、気遣いを感じられる文面。
貸してもらったノートと並べて見比べてみても、本人が書いたようにしか思えない神クオリティだった。さすがは本物の神さまの仕事だ。
休み時間中にありさちゃんの下駄箱にこっそりと手紙を忍ばせて、放課後、約束の屋上前で待機。
うう。これしか方法がなかったとはいえ、本当に、良かったのかなぁ。
【実行した後になって、罪悪感を抱いても遅いよ。腹をくくりな】
それは、そうなんだけど……。
ちなみに、ルカは、わたし通して様子を見守りながら、図書室で待ってくれている。
よし。
胸がチクチクとする後ろめたい気持ちはぬぐえないけれど、ありさちゃんと向き合うためには必要なことだったんだ。
覚悟を決めて唇を引きむすんだその時、階段下の方から、息を切らしたような声。
明らかにこちらへと向かって大きくなっていく足音に身を乗りだしたら、彼女は、切羽つまったように叫んだ。
「俊!」
勢いよく階段をのぼりきったありさちゃんは、膝に手をつきながら、荒くなった息を整えて――
「わ、わざわざ手紙なんかで、こんなところに呼び出すなんて、なにかあったの? スマホで連絡をくれればよかったのに」
――ゆっくりと顔をあげた時、ガクゼンと瞳を見開いた。
「えっ……な、奈々?」
真っ白なお肌が、あっという間に、カーッと赤くなった。大きな瞳はウルウルしている。
「な、ななな、なんで、奈々がここに……? それよりも、ねえ、奈々。俊……いや、水谷くんを、見かけなかった?」
パニックになって、わたしの肩をつかんできたありさちゃんを落ち着かせるように、細い両肩に手を置いた。
「ごめんね、ありさちゃんっ。水谷くんは、ここには来ないの!」
目の前の大きな瞳から、すっと星の輝きが消える。
心臓を握りつぶされたみたいに、胸が痛い。
ありさちゃんの深い悲しみが、なだれこんできたように。
「……どういう、ことなの」
魂が抜けちゃったみたいに、うつろな声。
スカートからのぞく細い足はかわいそうなぐらいに震えていた。
わたしが、ありさちゃんを、傷つけたんだ。
ウソを吐いたからには、その事実も、きっちり引き受けなくちゃいけない。
「本当にごめんっ。あの手紙は、わたしが書いたニセモノなの。どうしても、ありさちゃんと二人で話がしたくて」
「……そっか」
枯れたお花のようにしおれていくありさちゃんに、どうしても伝えたくて、わたしはその繊細な手をぎゅっとにぎった。
「ごめん。謝ってゆるされることじゃないかもしれないけど、本当にごめんっ。ありさちゃん、ここのところなんだか様子がおかしかったから、ずっと気になっていて……茜ちゃんから、二人の関係を聞いたの」
「……そっか」
「頼まれてもいないのに、勝手なことをしてごめんっ!! だけど……わたしは、できることならありさちゃんの力になりたいんだ。その気持ちに、ウソはない!」
伝われっ。
伝われ……!
誠意をこめて、深く深く、頭を下げたら。
「…………最低」
ありさちゃんの唇からこぼれた呪詛のような涙声に、心臓に氷の針を打ちこまれたようだった。全身から血の気が引いていく。
最低。
そう、だよね。
いくら、ありさちゃんのためだと思ってたとはいえ……そんなの理由にならない。
友達をだますなんて、最低だって言われて当然だ。
「…………っ。ごめん!」
涙声になりそうなのを、必死でのみこんだ。
だって、こんな最低なことをしたわたしに、泣く資格なんてない。
「だまして、傷つけて、ほんとにサイテーだった……。謝ってゆるされることじゃないって、わかってる……でも……ほんとに、ごめんね」
泣きたくはないから、ぐっと唇をかんだ。加害者なのに、被害者面をしたくないもん。
ありさちゃんの顔を見ることもできずに、フラフラとなりながら立ち去ろうとしたら。
「待って、奈々っ!」
腕を、つかまれた。
「最低なんて、ひどいことを言っちゃってごめんね……。その……ビックリしたし、混乱しすぎて、思わず言っちゃったの」
「そ、そんなの当然だよ! ほんとに、ひどいことをしたんだもんっ」
「……奈々。顔をあげて」
ありさちゃんは、今にも泣きそうなわたしをまっすぐに見つめながら、緊張した面持ちで言った。
「奈々の気持ちは、伝わったよ」
「……うん」
「あのね……、率直に言うと、騙すなんて酷いって思った。……けどね、奈々が、わけもなく人を騙すような悪い子じゃないってことも、ちゃんとわかってるの」
「ありさちゃん……」
「……筆箱を落としちゃったあの日、あたし、俊に対して明らかにおかしかったよね。奈々は、ずっと、心配してくれてたんだね」
「それは、そうだけど」
「奈々が心配してくれてたこと、薄々わかってたの。わかってて、あえて無視した。だから……あたしの方こそ、ごめんね」
まさか謝られるとは思っていなくて、心臓がギュッとなった。
ガマンしていたけど、もう限界だ。
ぽろぽろと、瞳から熱い涙がこぼれ落ちる。
「ありさちゃんが……謝ることじゃないよ。わたしが、おせっかいで、勝手にしたことだもん……っ」
「ふふっ。もう、いいってば。……自分で言うのもなんだけど、あたし、頑固なところがあるからさ。奈々は、押しても開かない扉を、強引に壊して入ってきてくれたんだと思うの。だから、感謝もしてるんだよ」
不意に、ルカの言葉が蘇った。
【うん。押してダメなら叩いてみろ、っていうでしょ?】
友達を騙すなんて、絶対に良くないことだ。今でも反省してる。
けど……今回のことは実行して良かったんだと、そう思えた。
「けどね、奈々。あの無駄にクオリティの高い技術を、あたし以外の人に、悪用したらダメだからね? 俊が書いたとしか思えなかったもん!」
「うっ……し、しないよ! 絶対にしない!」
「あははっ。なんか、笑っちゃうな」
あっ。
ありさちゃん、やっと笑ってくれた。
いつもかわいいありさちゃんだけど、やっぱり、笑ったありさちゃんが一番だな。
互いにやさしい視線を向け合った時、さっきまではりつめていた空気が、やわらかく溶けはじめた。
「奈々は……あたしと俊のことを、茜から聞いたんだね」
こくりとうなずけば、ありさちゃんは、制服のスソをぎゅっと握りしめた。
「もう、ぜんぶ察しがついてるんでしょ? ……あたしの気持ち」
誤魔化さずに、もう一度、うなずく。
すると、ありさちゃんのほっぺたは、再びリンゴみたいに赤く染まった。
「……奈々には、ごまかせなかったかぁ。さすが、彼氏持ちはちがうね」
「か、彼氏は、関係ないけど……」
っていうか、それはウソだしね。
ちょっと、さびしいけど。
あれ?
いま、わたし、何を考えて……。
自分の考えに戸惑っていたら、ありさちゃんが、すがるようにわたしの手を握りなおしてきた。
「……あたしね、奈々も知っての通り、俊のことが好き。大好きなの」
ドキリとした。
ありさちゃんの瞳が、ものすごく真剣だったから。
息をのんだわたしに、ありさちゃんは、しゃくりあげながら苦しそうに言った。
「でも、あたしは……俊に、取り返しのつかないことをしちゃったんだ。多分、愛想つかされてる」
ぽろぽろと、真珠みたいな涙が顔をつたう。
「取り返しのつかないこと?」
ありさちゃんはぎゅっと目をつむりながら、熱い吐息をもらした。
「俊とは家が隣同士で、家族ぐるみで仲が良かったから、物心がついたときには一緒にいたの。昔から、俊は、やさしくて、頭がよくて、大人っぽくて……そそっかしいあたしを助けてくれていた」
ありさちゃんは、大切な宝物を見せるみたいに、水谷くんとの思い出を語ってくれた。
幼稚園生時代。
公園の砂場で転んじゃって、お気に入りのスカートを汚しちゃった時、泣いてしまったありさちゃんにお花で編んだ冠をくれたこと。
『うん、ありさによく似合っている。かわいい』
涙で目が赤くなってしまったありさちゃんの頭をやさしく撫でながら、水谷くんはにっこりと笑ったんだって。
『おうちに帰って、ママに洗ってもらおう。心配しないでも、大丈夫。すぐに洗えばきれいになるから』
小学時代。
放課後になると、毎日のように、水谷くんのお部屋にお邪魔したこと。
そのお部屋は、本棚に入りきらないほど本があふれていて、床にまで本が積まれているようなありさまで。足の踏み場もなかったから、二人はいつも、身を寄せあって過ごしていた。
絵本を読んだり、ゲームをしたり、宿題を教えてもらったり。
水谷くんは特に勉強を教えるのがとっても上手で、勉強が苦手だったありさちゃんでも、水谷くんのお話だけは飽きずに聞けていたんだって。
『俊は、やっぱりすごいね! 先生の授業よりも、ずーーっと分かりやすかった! 俊が学校の先生だったら良かったのになぁ』
『ええっ? ありさは大げさだよ』
『でも、みんなの先生になっちゃったら、それはそれで困るかも……』
『そうなの?』
『だ、だって……。みんなの先生になっちゃったら、こうやって二人でお勉強することもできなくなっちゃうかもしれないから』
想像してしょんぼりとうつむいたありさちゃんの瞳をのぞきこみながら、水谷くんは『シンデレラ』の絵本をかかげた。
『ねえ、ありさ。ありさは、僕にとってのかわいいお姫さまだよ』
『えっ』
ドキドキとしながら大きな瞳を丸くしたありさちゃんを見つめながら、水谷くんは、とびきりやさしい目をしていたんだって!
『急で申し訳ないんだけど、
二人きりで話したいことがあります。
部活の前に、ちょっとだけでも話せないかな。
放課後、屋上前の踊り場で待っています。水谷』
几帳面で整った文字に、気遣いを感じられる文面。
貸してもらったノートと並べて見比べてみても、本人が書いたようにしか思えない神クオリティだった。さすがは本物の神さまの仕事だ。
休み時間中にありさちゃんの下駄箱にこっそりと手紙を忍ばせて、放課後、約束の屋上前で待機。
うう。これしか方法がなかったとはいえ、本当に、良かったのかなぁ。
【実行した後になって、罪悪感を抱いても遅いよ。腹をくくりな】
それは、そうなんだけど……。
ちなみに、ルカは、わたし通して様子を見守りながら、図書室で待ってくれている。
よし。
胸がチクチクとする後ろめたい気持ちはぬぐえないけれど、ありさちゃんと向き合うためには必要なことだったんだ。
覚悟を決めて唇を引きむすんだその時、階段下の方から、息を切らしたような声。
明らかにこちらへと向かって大きくなっていく足音に身を乗りだしたら、彼女は、切羽つまったように叫んだ。
「俊!」
勢いよく階段をのぼりきったありさちゃんは、膝に手をつきながら、荒くなった息を整えて――
「わ、わざわざ手紙なんかで、こんなところに呼び出すなんて、なにかあったの? スマホで連絡をくれればよかったのに」
――ゆっくりと顔をあげた時、ガクゼンと瞳を見開いた。
「えっ……な、奈々?」
真っ白なお肌が、あっという間に、カーッと赤くなった。大きな瞳はウルウルしている。
「な、ななな、なんで、奈々がここに……? それよりも、ねえ、奈々。俊……いや、水谷くんを、見かけなかった?」
パニックになって、わたしの肩をつかんできたありさちゃんを落ち着かせるように、細い両肩に手を置いた。
「ごめんね、ありさちゃんっ。水谷くんは、ここには来ないの!」
目の前の大きな瞳から、すっと星の輝きが消える。
心臓を握りつぶされたみたいに、胸が痛い。
ありさちゃんの深い悲しみが、なだれこんできたように。
「……どういう、ことなの」
魂が抜けちゃったみたいに、うつろな声。
スカートからのぞく細い足はかわいそうなぐらいに震えていた。
わたしが、ありさちゃんを、傷つけたんだ。
ウソを吐いたからには、その事実も、きっちり引き受けなくちゃいけない。
「本当にごめんっ。あの手紙は、わたしが書いたニセモノなの。どうしても、ありさちゃんと二人で話がしたくて」
「……そっか」
枯れたお花のようにしおれていくありさちゃんに、どうしても伝えたくて、わたしはその繊細な手をぎゅっとにぎった。
「ごめん。謝ってゆるされることじゃないかもしれないけど、本当にごめんっ。ありさちゃん、ここのところなんだか様子がおかしかったから、ずっと気になっていて……茜ちゃんから、二人の関係を聞いたの」
「……そっか」
「頼まれてもいないのに、勝手なことをしてごめんっ!! だけど……わたしは、できることならありさちゃんの力になりたいんだ。その気持ちに、ウソはない!」
伝われっ。
伝われ……!
誠意をこめて、深く深く、頭を下げたら。
「…………最低」
ありさちゃんの唇からこぼれた呪詛のような涙声に、心臓に氷の針を打ちこまれたようだった。全身から血の気が引いていく。
最低。
そう、だよね。
いくら、ありさちゃんのためだと思ってたとはいえ……そんなの理由にならない。
友達をだますなんて、最低だって言われて当然だ。
「…………っ。ごめん!」
涙声になりそうなのを、必死でのみこんだ。
だって、こんな最低なことをしたわたしに、泣く資格なんてない。
「だまして、傷つけて、ほんとにサイテーだった……。謝ってゆるされることじゃないって、わかってる……でも……ほんとに、ごめんね」
泣きたくはないから、ぐっと唇をかんだ。加害者なのに、被害者面をしたくないもん。
ありさちゃんの顔を見ることもできずに、フラフラとなりながら立ち去ろうとしたら。
「待って、奈々っ!」
腕を、つかまれた。
「最低なんて、ひどいことを言っちゃってごめんね……。その……ビックリしたし、混乱しすぎて、思わず言っちゃったの」
「そ、そんなの当然だよ! ほんとに、ひどいことをしたんだもんっ」
「……奈々。顔をあげて」
ありさちゃんは、今にも泣きそうなわたしをまっすぐに見つめながら、緊張した面持ちで言った。
「奈々の気持ちは、伝わったよ」
「……うん」
「あのね……、率直に言うと、騙すなんて酷いって思った。……けどね、奈々が、わけもなく人を騙すような悪い子じゃないってことも、ちゃんとわかってるの」
「ありさちゃん……」
「……筆箱を落としちゃったあの日、あたし、俊に対して明らかにおかしかったよね。奈々は、ずっと、心配してくれてたんだね」
「それは、そうだけど」
「奈々が心配してくれてたこと、薄々わかってたの。わかってて、あえて無視した。だから……あたしの方こそ、ごめんね」
まさか謝られるとは思っていなくて、心臓がギュッとなった。
ガマンしていたけど、もう限界だ。
ぽろぽろと、瞳から熱い涙がこぼれ落ちる。
「ありさちゃんが……謝ることじゃないよ。わたしが、おせっかいで、勝手にしたことだもん……っ」
「ふふっ。もう、いいってば。……自分で言うのもなんだけど、あたし、頑固なところがあるからさ。奈々は、押しても開かない扉を、強引に壊して入ってきてくれたんだと思うの。だから、感謝もしてるんだよ」
不意に、ルカの言葉が蘇った。
【うん。押してダメなら叩いてみろ、っていうでしょ?】
友達を騙すなんて、絶対に良くないことだ。今でも反省してる。
けど……今回のことは実行して良かったんだと、そう思えた。
「けどね、奈々。あの無駄にクオリティの高い技術を、あたし以外の人に、悪用したらダメだからね? 俊が書いたとしか思えなかったもん!」
「うっ……し、しないよ! 絶対にしない!」
「あははっ。なんか、笑っちゃうな」
あっ。
ありさちゃん、やっと笑ってくれた。
いつもかわいいありさちゃんだけど、やっぱり、笑ったありさちゃんが一番だな。
互いにやさしい視線を向け合った時、さっきまではりつめていた空気が、やわらかく溶けはじめた。
「奈々は……あたしと俊のことを、茜から聞いたんだね」
こくりとうなずけば、ありさちゃんは、制服のスソをぎゅっと握りしめた。
「もう、ぜんぶ察しがついてるんでしょ? ……あたしの気持ち」
誤魔化さずに、もう一度、うなずく。
すると、ありさちゃんのほっぺたは、再びリンゴみたいに赤く染まった。
「……奈々には、ごまかせなかったかぁ。さすが、彼氏持ちはちがうね」
「か、彼氏は、関係ないけど……」
っていうか、それはウソだしね。
ちょっと、さびしいけど。
あれ?
いま、わたし、何を考えて……。
自分の考えに戸惑っていたら、ありさちゃんが、すがるようにわたしの手を握りなおしてきた。
「……あたしね、奈々も知っての通り、俊のことが好き。大好きなの」
ドキリとした。
ありさちゃんの瞳が、ものすごく真剣だったから。
息をのんだわたしに、ありさちゃんは、しゃくりあげながら苦しそうに言った。
「でも、あたしは……俊に、取り返しのつかないことをしちゃったんだ。多分、愛想つかされてる」
ぽろぽろと、真珠みたいな涙が顔をつたう。
「取り返しのつかないこと?」
ありさちゃんはぎゅっと目をつむりながら、熱い吐息をもらした。
「俊とは家が隣同士で、家族ぐるみで仲が良かったから、物心がついたときには一緒にいたの。昔から、俊は、やさしくて、頭がよくて、大人っぽくて……そそっかしいあたしを助けてくれていた」
ありさちゃんは、大切な宝物を見せるみたいに、水谷くんとの思い出を語ってくれた。
幼稚園生時代。
公園の砂場で転んじゃって、お気に入りのスカートを汚しちゃった時、泣いてしまったありさちゃんにお花で編んだ冠をくれたこと。
『うん、ありさによく似合っている。かわいい』
涙で目が赤くなってしまったありさちゃんの頭をやさしく撫でながら、水谷くんはにっこりと笑ったんだって。
『おうちに帰って、ママに洗ってもらおう。心配しないでも、大丈夫。すぐに洗えばきれいになるから』
小学時代。
放課後になると、毎日のように、水谷くんのお部屋にお邪魔したこと。
そのお部屋は、本棚に入りきらないほど本があふれていて、床にまで本が積まれているようなありさまで。足の踏み場もなかったから、二人はいつも、身を寄せあって過ごしていた。
絵本を読んだり、ゲームをしたり、宿題を教えてもらったり。
水谷くんは特に勉強を教えるのがとっても上手で、勉強が苦手だったありさちゃんでも、水谷くんのお話だけは飽きずに聞けていたんだって。
『俊は、やっぱりすごいね! 先生の授業よりも、ずーーっと分かりやすかった! 俊が学校の先生だったら良かったのになぁ』
『ええっ? ありさは大げさだよ』
『でも、みんなの先生になっちゃったら、それはそれで困るかも……』
『そうなの?』
『だ、だって……。みんなの先生になっちゃったら、こうやって二人でお勉強することもできなくなっちゃうかもしれないから』
想像してしょんぼりとうつむいたありさちゃんの瞳をのぞきこみながら、水谷くんは『シンデレラ』の絵本をかかげた。
『ねえ、ありさ。ありさは、僕にとってのかわいいお姫さまだよ』
『えっ』
ドキドキとしながら大きな瞳を丸くしたありさちゃんを見つめながら、水谷くんは、とびきりやさしい目をしていたんだって!