ドSキューピットさまと恋のお手伝い!
23話 信じる
ママと焼きたてのクッキーをつまみながら、ゆっくりとお話した翌日の朝。
一か月以上ぶりの、登校日だ。
久しぶりにみんなと顔を合わせられて嬉しい。
だけど、今のわたしは、浮かれてばかりでもいられない。
今朝のママの助言で、やってみようって決めたことがあるんだ。
休み時間になり、わたしはスクールバッグから、羽ペンと天使モチーフの便せんを取り出した。
『奈々ちゃん。ママも一晩考えてみたんだけれど、もう一度、キューピットさまにお手紙を書いてみない?』
このペンと便せんを手にするのは、小学生ぶりだ。
ずっと目に触れないように引き出しの奥にしまっていたから、ホコリかぶっちゃってたよ。
もう二度と、キューピットさまへの手紙を書くことはないと思ってた。
このペンと便せんを使うことも、一生ないって。
だけど今のわたしは、もう一度、奇跡を信じることにしたんだ。
本当は、自分のお部屋で、誰にもジャマされずにゆっくりと書きたかったけど、一度やると決めたらいてもたってもいられなくなって。
一刻も早く、手紙を完成させたくなったの。
「奈々ちゃん、休み時間中、ずーっと机に向かってるね」
「思いつめたような顔をしてるけど……。大丈夫かなぁ」
久しぶりに『キューピットさまへ』と最初の一文を書いた時、たくさんの感情がこみあげてきて、泣いちゃいそうだった。
爽くんのことが好きだった時も、こうやってたくさんのお手紙を書いたな。
本気で信じていたからこそ、苦しい思いをしたこともあった。
だけど、きっと空の上から見守ってくれているって信じていたあの日々は、やっぱりきらきらと輝いていた!
ねえ、キューピットさま。
ううん、ルカ。
今度は、他の誰のためでもなく、ルカに宛ててお手紙を書くね。
出会ってから、今までのこと。
わたしは、口は悪いけど、なんだかんだでやさしいルカのことが大好きだってこと。
神界に帰っても、みんながルカのことを忘れても、わたしだけは一日も忘れなかったこと。
ねえ。わたしは、このまま、ルカとお別れなんて嫌だな。
会いたいよ。
休み時間になるたび、一心不乱に手紙を書きつづけて、給食後のお昼休みの時にようやく完成した。
やっとできたっ!
お願い、ルカ。
神界から、もう一度、わたしの手紙を読んで。
ありったけの気持ち全てをこめた、大事な大事なお手紙だよ。
前かがみの姿勢が辛くなって、ぐーっと背伸びをした、次の瞬間。
窓から吹きこんだ突風に、書き上げたばかりの手紙をとばされしまった。
「あっ! 待って!!」
慌てて、腕を伸ばしたんだけど、間に合わなくて。
「……キューピットさまへ? 何だよ、これ」
怪訝な顔で首をかしげながら、わたしの手紙を拾った彼には、これ以上にないぐらい見覚えがあった。
「なんか、こーゆー手紙見覚えあんな。あ、そうだそうだ! 大神だ。え? もしかしてアイツ、中学生にもなってまだキューピットさま信じてんの?」
呼吸が、止まりそうになる。全身にぞっと鳥肌が立った。
夢中で手紙を書いていたから、気がついていなかった。
小学時代に、わたしのことを、嘲笑った彼。
うちのクラスまで、遊びにきていたんだ。
「さすがに、不思議ちゃんはもう卒業したと思ってたけど。小学時代からなんにも変わってないのな」
小学時代よりも少し背が伸びた彼は、凶悪な笑顔で、またわたしを笑い者にしようとしていた。
「なんか、ずーっと熱心に書いてるなぁとは思ってたけど……」
「キューピットさまへ……って。ヤバくね?」
教室に残っているクラスの子たちの、ひそひそ声。
白けているような冷たい視線に串刺しにされたようで、頭が真っ白になりかける。
ありさちゃんも、ゆきりんも、茜ちゃんも……どうして良いのか分からないというような困惑顔。
今この教室に、わたしの味方は、一人もいなかった。
「おい。黙ってないで、なんとか言ったらどーなんだよ」
ぎゅっと唇をかみしめる。
怖い。
逃げちゃいたいぐらい怖いよ。
今だったら、誤魔化し笑いをして、ギリギリ『フツウ』の女の子を装えるかもしれない。
だけど……わたし、またウソを吐くの?
みんなに合わせるためだけに、わたしまで、ルカの存在を否定するの?
そんなの嫌だ!
誰も信じていなくても、みんなに笑われても良い。
ルカを否定するぐらいなら、わたしは『フツウ』じゃなくて良い!!
震える手をぎゅっと握りしめて、手紙を拾い上げた彼のもとに近づいていく。
気がぬけたら今にも涙がこぼれ出そうだけど、ガマンだ。
ありったけの力をこめて、目の前の彼を睨みつける。
「なんだよ、その目」
「手紙、返して! 大事なものなの」
「こんなの要らねーから返すよ。っつーか、なに本気になっちゃってんの? マジで気持ち悪ぃんだけど」
言葉の嵐に吹き飛ばされちゃいそうだけど、なんとか歯を食いしばる。
だって、決めたから。
みんなにも自分にも、もう、ウソを吐かないって決めたから!
わたしは突き返された手紙を受け取ると、もう手離さないようにしっかりと胸に抱いた。
「そうだよ。わたしは、神さまを信じてる。神さまたちは、空の上からみんなを見守ってくれているんだよ」
得体のしれないものを見るような目にも、負けない。
「みんなが信じられなくても良い。本気で信じてるなんて『ヘン』だって思われても良い。それでも……わたしは、信じるのをやめないからっ!!」
ああ、また泣いちゃった。
こらえきれなかったな。
誰も言葉を出せず、休み時間中とは思えないほど、堅苦しい沈黙が落ちた次の瞬間だった。
突然、教室中がまばゆい光に包まれた。
「うわっ!?」
「なんだよこれ!」
光はあっという間に学校全体を飲みこむように大きくなって、誰もがまぶしさから逃れようと目を腕でおおった。
そうしたら、暗闇の中で、聞こえてきたんだ。
「みんなの前で、あんな宣言をするなんて、キミってホントにバカ」
その懐かしい声に、今度こそ、涙が止まらなくなった。
「でも……たった一人きりで、忘れないでいてくれてありがとう。ゼウスさまの力にも負けないぐらい、大切に思っていてくれてありがとう。一人でよく頑張ったね」
ハッと目を見開けば。
目の前に、ルカがいた。
彼はやさしい顔をしながら、わたしの涙を、そっとぬぐってくれた。
「ただいま、奈々。ずいぶんと待たせて、ごめんね」
「ルカ……っ」
あたたかい。
本物のルカだ!
ルカが、帰ってきたんだ!!
「ルカっっ!!」
感極まって抱きついたら、ルカはぎょっとしたように身をよじったけど、受け入れてくれた。
触れる。あったかくて安心する。
幻じゃない……!
「ひゅーひゅー。奈々と天堂くんは相変わらずラーブラブだなぁ」
「おーーい、みんなぁ! バカップルが教室で抱き合ってんぞ~~!!」
あれ。
あれれれれ!?
みんな、ルカのことを思い出してる!
ってゆーか、わたしたち、めっちゃくちゃ注目されてる!?
はわわわわ!
感動の再会で、ダイタンなことしちゃった!!
慌てて、ルカから離れようとしたけれど、強い力で引きもどされた!?
「そーだよ。ボクらは、世界をまたぐような恋をしちゃうほどラブラブなの! だから、万が一にも、誰かがボクの奈々をいじめるようなことがあったら、この学校ごと吹き飛ばすからね!」
一か月以上ぶりの、登校日だ。
久しぶりにみんなと顔を合わせられて嬉しい。
だけど、今のわたしは、浮かれてばかりでもいられない。
今朝のママの助言で、やってみようって決めたことがあるんだ。
休み時間になり、わたしはスクールバッグから、羽ペンと天使モチーフの便せんを取り出した。
『奈々ちゃん。ママも一晩考えてみたんだけれど、もう一度、キューピットさまにお手紙を書いてみない?』
このペンと便せんを手にするのは、小学生ぶりだ。
ずっと目に触れないように引き出しの奥にしまっていたから、ホコリかぶっちゃってたよ。
もう二度と、キューピットさまへの手紙を書くことはないと思ってた。
このペンと便せんを使うことも、一生ないって。
だけど今のわたしは、もう一度、奇跡を信じることにしたんだ。
本当は、自分のお部屋で、誰にもジャマされずにゆっくりと書きたかったけど、一度やると決めたらいてもたってもいられなくなって。
一刻も早く、手紙を完成させたくなったの。
「奈々ちゃん、休み時間中、ずーっと机に向かってるね」
「思いつめたような顔をしてるけど……。大丈夫かなぁ」
久しぶりに『キューピットさまへ』と最初の一文を書いた時、たくさんの感情がこみあげてきて、泣いちゃいそうだった。
爽くんのことが好きだった時も、こうやってたくさんのお手紙を書いたな。
本気で信じていたからこそ、苦しい思いをしたこともあった。
だけど、きっと空の上から見守ってくれているって信じていたあの日々は、やっぱりきらきらと輝いていた!
ねえ、キューピットさま。
ううん、ルカ。
今度は、他の誰のためでもなく、ルカに宛ててお手紙を書くね。
出会ってから、今までのこと。
わたしは、口は悪いけど、なんだかんだでやさしいルカのことが大好きだってこと。
神界に帰っても、みんながルカのことを忘れても、わたしだけは一日も忘れなかったこと。
ねえ。わたしは、このまま、ルカとお別れなんて嫌だな。
会いたいよ。
休み時間になるたび、一心不乱に手紙を書きつづけて、給食後のお昼休みの時にようやく完成した。
やっとできたっ!
お願い、ルカ。
神界から、もう一度、わたしの手紙を読んで。
ありったけの気持ち全てをこめた、大事な大事なお手紙だよ。
前かがみの姿勢が辛くなって、ぐーっと背伸びをした、次の瞬間。
窓から吹きこんだ突風に、書き上げたばかりの手紙をとばされしまった。
「あっ! 待って!!」
慌てて、腕を伸ばしたんだけど、間に合わなくて。
「……キューピットさまへ? 何だよ、これ」
怪訝な顔で首をかしげながら、わたしの手紙を拾った彼には、これ以上にないぐらい見覚えがあった。
「なんか、こーゆー手紙見覚えあんな。あ、そうだそうだ! 大神だ。え? もしかしてアイツ、中学生にもなってまだキューピットさま信じてんの?」
呼吸が、止まりそうになる。全身にぞっと鳥肌が立った。
夢中で手紙を書いていたから、気がついていなかった。
小学時代に、わたしのことを、嘲笑った彼。
うちのクラスまで、遊びにきていたんだ。
「さすがに、不思議ちゃんはもう卒業したと思ってたけど。小学時代からなんにも変わってないのな」
小学時代よりも少し背が伸びた彼は、凶悪な笑顔で、またわたしを笑い者にしようとしていた。
「なんか、ずーっと熱心に書いてるなぁとは思ってたけど……」
「キューピットさまへ……って。ヤバくね?」
教室に残っているクラスの子たちの、ひそひそ声。
白けているような冷たい視線に串刺しにされたようで、頭が真っ白になりかける。
ありさちゃんも、ゆきりんも、茜ちゃんも……どうして良いのか分からないというような困惑顔。
今この教室に、わたしの味方は、一人もいなかった。
「おい。黙ってないで、なんとか言ったらどーなんだよ」
ぎゅっと唇をかみしめる。
怖い。
逃げちゃいたいぐらい怖いよ。
今だったら、誤魔化し笑いをして、ギリギリ『フツウ』の女の子を装えるかもしれない。
だけど……わたし、またウソを吐くの?
みんなに合わせるためだけに、わたしまで、ルカの存在を否定するの?
そんなの嫌だ!
誰も信じていなくても、みんなに笑われても良い。
ルカを否定するぐらいなら、わたしは『フツウ』じゃなくて良い!!
震える手をぎゅっと握りしめて、手紙を拾い上げた彼のもとに近づいていく。
気がぬけたら今にも涙がこぼれ出そうだけど、ガマンだ。
ありったけの力をこめて、目の前の彼を睨みつける。
「なんだよ、その目」
「手紙、返して! 大事なものなの」
「こんなの要らねーから返すよ。っつーか、なに本気になっちゃってんの? マジで気持ち悪ぃんだけど」
言葉の嵐に吹き飛ばされちゃいそうだけど、なんとか歯を食いしばる。
だって、決めたから。
みんなにも自分にも、もう、ウソを吐かないって決めたから!
わたしは突き返された手紙を受け取ると、もう手離さないようにしっかりと胸に抱いた。
「そうだよ。わたしは、神さまを信じてる。神さまたちは、空の上からみんなを見守ってくれているんだよ」
得体のしれないものを見るような目にも、負けない。
「みんなが信じられなくても良い。本気で信じてるなんて『ヘン』だって思われても良い。それでも……わたしは、信じるのをやめないからっ!!」
ああ、また泣いちゃった。
こらえきれなかったな。
誰も言葉を出せず、休み時間中とは思えないほど、堅苦しい沈黙が落ちた次の瞬間だった。
突然、教室中がまばゆい光に包まれた。
「うわっ!?」
「なんだよこれ!」
光はあっという間に学校全体を飲みこむように大きくなって、誰もがまぶしさから逃れようと目を腕でおおった。
そうしたら、暗闇の中で、聞こえてきたんだ。
「みんなの前で、あんな宣言をするなんて、キミってホントにバカ」
その懐かしい声に、今度こそ、涙が止まらなくなった。
「でも……たった一人きりで、忘れないでいてくれてありがとう。ゼウスさまの力にも負けないぐらい、大切に思っていてくれてありがとう。一人でよく頑張ったね」
ハッと目を見開けば。
目の前に、ルカがいた。
彼はやさしい顔をしながら、わたしの涙を、そっとぬぐってくれた。
「ただいま、奈々。ずいぶんと待たせて、ごめんね」
「ルカ……っ」
あたたかい。
本物のルカだ!
ルカが、帰ってきたんだ!!
「ルカっっ!!」
感極まって抱きついたら、ルカはぎょっとしたように身をよじったけど、受け入れてくれた。
触れる。あったかくて安心する。
幻じゃない……!
「ひゅーひゅー。奈々と天堂くんは相変わらずラーブラブだなぁ」
「おーーい、みんなぁ! バカップルが教室で抱き合ってんぞ~~!!」
あれ。
あれれれれ!?
みんな、ルカのことを思い出してる!
ってゆーか、わたしたち、めっちゃくちゃ注目されてる!?
はわわわわ!
感動の再会で、ダイタンなことしちゃった!!
慌てて、ルカから離れようとしたけれど、強い力で引きもどされた!?
「そーだよ。ボクらは、世界をまたぐような恋をしちゃうほどラブラブなの! だから、万が一にも、誰かがボクの奈々をいじめるようなことがあったら、この学校ごと吹き飛ばすからね!」