ドSキューピットさまと恋のお手伝い!
3話 ウワサの天堂くん
はぁ……。
今朝は、小学時代の嫌な夢を見ちゃったな。
今の中学のクラスは、小学時代からの知り合いが少ないから助かってるんだよね。
ユウウツな気分を引きずったまま授業を受けて、放課後に。
部活の見学に行くというみんなにバイバイをして、わたしは図書室へとやってきた。
みんな、わたしの彼氏話を聞きたそうにウズウズとしていて、ちょっと心苦しかったけれど……。
ニセの彼氏話をでっちあげられる心境じゃなかったんだもん。
校舎の一階の隅、図書室の中に足を踏みいれる。
紙の本独特の匂いが鼻いっぱいに広がって、心がふわりと持ちあがった。
このインクの匂いと本に囲まれた空間、やっぱり好きだなぁ。
それに、小学校の図書室よりも広い!
あっ! ギリシャ神話の本も、置いてある。
もうあんな嫌な思いは二度としたくないけれど……こっそりと、一人で楽しむ分には良いかなぁ。
ごくりとツバをのみこんで、恐る恐る、その本に手を伸ばした瞬間――誰かと手がぶつかった。
「「あっ」」
その人の顔を見た瞬間、ごめんなさい! という言葉もひっこんだ。
太陽の光を溶かしたような、まばゆい金の髪。
今日の空よりも青く澄んだ、キレイな瞳。
すべすべの白い顔、はなびらのような唇。
ブレザーの制服の上からでも分かる、ほっそりとした身体。
驚いたようにぽかんとしている表情まで、なにもかもが完璧にうつくしい男の子だったんだ。
だけど、ポカンとしてしまった理由は、それだけじゃない。
一瞬。
まばたきをするようなほーんの一瞬の間だったんだけど、その子の肩から、白い翼がはえているように見えたの。
だから――思わず、口に出ちゃってた。
「神さま……?」
青い瞳が、びっくりしたように見開かれる。
「えっ?」
「あ、い、いや。な、なななな、なんでもないです!」
わたしったら、初対面の相手になに口走ってるの!?
バカバカバカ!
ぜっったいヘンな子だって思われた~!
キレイな男の子は、あっけにとられたように大きな瞳をパチパチさせて、首をかしげた。
「ねえ。もしかして、キミも、この本に興味があるの?」
わぁお……顔だけじゃなくて、声までキレイなんだぁ。
鈴を転がしたみたいに、透き通っている声。
「おーい。聞こえてる?」
「あ。は、はい!」
慌ててうなずくと、彼は、じいいっとわたしの顔を見つめてきた。
えっ?
な、なに?
「キミの名前を聞いてもいい?」
「い、一年一組の大神奈々です」
「大神さん、よろしくね。ボクは、一年二組の天堂ルカだよ」
「よろしく! ……って、天堂くん!?」
彼が、ウワサの天堂くんだったんだ!
たしかに、とんでもなくかっこいい。
イケメンぶりが只者じゃないっていうか、次元を超えちゃってる。
みんなが絶賛していた理由が、ようく分かるよ。
「なんで、驚いているの?」
「あ、えと……。二組の天堂くんイケメンだよね、ってみんながウワサしていたから」
って、すんなり正直に答えちゃったけど、本人に言ってもよかったのかなぁ。
まぁ、悪いウワサでもないしいっか~!
「ふうん。ま、このボクが美しいのは当然のことだけどね」
あれ?
いま、どこからともなく幻聴が聞こえたような……。
首をかしげているわたしに、天堂くんはとびきり爽やかな笑みを浮かべた。
「そんなことより、キミもこの本に興味があったんでしょ? ボクら、気が合うのかもね」
とくん。
心臓が、甘い毒を打たれたみたいに、ドクドクと波うちはじめる。
ああっ。こんな素敵笑顔を向けられたら、落ちつこうとしたってドキドキしちゃう。顔まであついよ。
「ボク、キミのこと気にいっちゃった。また会いにくるね、大神さん」
きらきらきらきら。
天堂くんは、去っていく姿まで神々しかった。
これがマンガだったら、光のエフェクトが画面いっっぱいに、たっくさん散りばめられていたところだよ。
恐るべし、王子さま力……!
夢、じゃないよね?
思わず、頬をつねってしまう。
むぎゅ。
うん、しっかり痛い。
ひゃあっ。
わたし、ウワサの天堂くんと会話をしちゃったんだ!
はわあぁ。
この世の人とは思えないくらい、かっこいい男の子だったなぁ。
*
「ねえ、ママっ!」
「あらあら、奈々ちゃんおかえりなさい。おいしいケーキが焼けているわよ」
リビングのドアをあけたら、甘くて、幸せな香りにつつみこまれた。
エプロン姿のママが、オーブントースターの前で、にこにこと笑っている。
ツヤツヤとしたセミロングの黒髪に、もちもちの白いお肌。
ふりふりのレース付の水色エプロンがよく似合っちゃってる。
お菓子作りが趣味で、ギリシャ神話に詳しいママはおっとり美人。
かわいらしい、自慢のママなんだ。
「わあ、おいしそう~!」
「うふふ。そういえば、奈々ちゃん、さっきなにか言いかけなかった?」
「あっ、そうそう!」
ママに話したかったのは、さっき出会ったばかりの、天堂くんのことだ。
洗面所で手を洗ってきて、いそいそとリビングテーブルの椅子に腰かける。
「今日ね、とーってもかっこいい男の子に出会ったの!」
「あらあら!」
「その子から、一瞬だけ翼が生えているように見えたんだ」
白いお皿を手に立ち上がったママは、パチパチとまばたきをしながら固まった。
あっ……。
誰かに話したい気持ちがまさって、つい、言っちゃったけど。
いきなりこんな話を聞かされても、わたしのことを心配しちゃうだけだったよね。
「ご、ごめん。やっぱり、今の忘れて! きっと、わたしの見間違いだよね」
あははと苦笑したわたしを、ママは、じいっと見つめてきた。
「ねえ、奈々ちゃん」
「うん?」
「その子、もしかしたら、本物の神さまかもしれないよ?」
ふわり、と。
心に一陣の風が吹きこんだみたいだった。
本物の神さま?
たしかに天堂くんは、不思議なくらいにキレイな男の子だったけど……。
「いやいやいや! やっぱり見間違いだと思うなっ。ママ、悪ノリしすぎ!」
ママは時々、ウソか本当か分からないようなことを、真剣な顔をして言うところがあるんだよね。
「ふふっ。さあ、冷めちゃう前に、はやく食べましょ」
ママは、悪戯っ子みたいに笑って、ケーキを差しだした。
今朝は、小学時代の嫌な夢を見ちゃったな。
今の中学のクラスは、小学時代からの知り合いが少ないから助かってるんだよね。
ユウウツな気分を引きずったまま授業を受けて、放課後に。
部活の見学に行くというみんなにバイバイをして、わたしは図書室へとやってきた。
みんな、わたしの彼氏話を聞きたそうにウズウズとしていて、ちょっと心苦しかったけれど……。
ニセの彼氏話をでっちあげられる心境じゃなかったんだもん。
校舎の一階の隅、図書室の中に足を踏みいれる。
紙の本独特の匂いが鼻いっぱいに広がって、心がふわりと持ちあがった。
このインクの匂いと本に囲まれた空間、やっぱり好きだなぁ。
それに、小学校の図書室よりも広い!
あっ! ギリシャ神話の本も、置いてある。
もうあんな嫌な思いは二度としたくないけれど……こっそりと、一人で楽しむ分には良いかなぁ。
ごくりとツバをのみこんで、恐る恐る、その本に手を伸ばした瞬間――誰かと手がぶつかった。
「「あっ」」
その人の顔を見た瞬間、ごめんなさい! という言葉もひっこんだ。
太陽の光を溶かしたような、まばゆい金の髪。
今日の空よりも青く澄んだ、キレイな瞳。
すべすべの白い顔、はなびらのような唇。
ブレザーの制服の上からでも分かる、ほっそりとした身体。
驚いたようにぽかんとしている表情まで、なにもかもが完璧にうつくしい男の子だったんだ。
だけど、ポカンとしてしまった理由は、それだけじゃない。
一瞬。
まばたきをするようなほーんの一瞬の間だったんだけど、その子の肩から、白い翼がはえているように見えたの。
だから――思わず、口に出ちゃってた。
「神さま……?」
青い瞳が、びっくりしたように見開かれる。
「えっ?」
「あ、い、いや。な、なななな、なんでもないです!」
わたしったら、初対面の相手になに口走ってるの!?
バカバカバカ!
ぜっったいヘンな子だって思われた~!
キレイな男の子は、あっけにとられたように大きな瞳をパチパチさせて、首をかしげた。
「ねえ。もしかして、キミも、この本に興味があるの?」
わぁお……顔だけじゃなくて、声までキレイなんだぁ。
鈴を転がしたみたいに、透き通っている声。
「おーい。聞こえてる?」
「あ。は、はい!」
慌ててうなずくと、彼は、じいいっとわたしの顔を見つめてきた。
えっ?
な、なに?
「キミの名前を聞いてもいい?」
「い、一年一組の大神奈々です」
「大神さん、よろしくね。ボクは、一年二組の天堂ルカだよ」
「よろしく! ……って、天堂くん!?」
彼が、ウワサの天堂くんだったんだ!
たしかに、とんでもなくかっこいい。
イケメンぶりが只者じゃないっていうか、次元を超えちゃってる。
みんなが絶賛していた理由が、ようく分かるよ。
「なんで、驚いているの?」
「あ、えと……。二組の天堂くんイケメンだよね、ってみんながウワサしていたから」
って、すんなり正直に答えちゃったけど、本人に言ってもよかったのかなぁ。
まぁ、悪いウワサでもないしいっか~!
「ふうん。ま、このボクが美しいのは当然のことだけどね」
あれ?
いま、どこからともなく幻聴が聞こえたような……。
首をかしげているわたしに、天堂くんはとびきり爽やかな笑みを浮かべた。
「そんなことより、キミもこの本に興味があったんでしょ? ボクら、気が合うのかもね」
とくん。
心臓が、甘い毒を打たれたみたいに、ドクドクと波うちはじめる。
ああっ。こんな素敵笑顔を向けられたら、落ちつこうとしたってドキドキしちゃう。顔まであついよ。
「ボク、キミのこと気にいっちゃった。また会いにくるね、大神さん」
きらきらきらきら。
天堂くんは、去っていく姿まで神々しかった。
これがマンガだったら、光のエフェクトが画面いっっぱいに、たっくさん散りばめられていたところだよ。
恐るべし、王子さま力……!
夢、じゃないよね?
思わず、頬をつねってしまう。
むぎゅ。
うん、しっかり痛い。
ひゃあっ。
わたし、ウワサの天堂くんと会話をしちゃったんだ!
はわあぁ。
この世の人とは思えないくらい、かっこいい男の子だったなぁ。
*
「ねえ、ママっ!」
「あらあら、奈々ちゃんおかえりなさい。おいしいケーキが焼けているわよ」
リビングのドアをあけたら、甘くて、幸せな香りにつつみこまれた。
エプロン姿のママが、オーブントースターの前で、にこにこと笑っている。
ツヤツヤとしたセミロングの黒髪に、もちもちの白いお肌。
ふりふりのレース付の水色エプロンがよく似合っちゃってる。
お菓子作りが趣味で、ギリシャ神話に詳しいママはおっとり美人。
かわいらしい、自慢のママなんだ。
「わあ、おいしそう~!」
「うふふ。そういえば、奈々ちゃん、さっきなにか言いかけなかった?」
「あっ、そうそう!」
ママに話したかったのは、さっき出会ったばかりの、天堂くんのことだ。
洗面所で手を洗ってきて、いそいそとリビングテーブルの椅子に腰かける。
「今日ね、とーってもかっこいい男の子に出会ったの!」
「あらあら!」
「その子から、一瞬だけ翼が生えているように見えたんだ」
白いお皿を手に立ち上がったママは、パチパチとまばたきをしながら固まった。
あっ……。
誰かに話したい気持ちがまさって、つい、言っちゃったけど。
いきなりこんな話を聞かされても、わたしのことを心配しちゃうだけだったよね。
「ご、ごめん。やっぱり、今の忘れて! きっと、わたしの見間違いだよね」
あははと苦笑したわたしを、ママは、じいっと見つめてきた。
「ねえ、奈々ちゃん」
「うん?」
「その子、もしかしたら、本物の神さまかもしれないよ?」
ふわり、と。
心に一陣の風が吹きこんだみたいだった。
本物の神さま?
たしかに天堂くんは、不思議なくらいにキレイな男の子だったけど……。
「いやいやいや! やっぱり見間違いだと思うなっ。ママ、悪ノリしすぎ!」
ママは時々、ウソか本当か分からないようなことを、真剣な顔をして言うところがあるんだよね。
「ふふっ。さあ、冷めちゃう前に、はやく食べましょ」
ママは、悪戯っ子みたいに笑って、ケーキを差しだした。