ドSキューピットさまと恋のお手伝い!
8話 筆箱事件発生!
桜が散り、通学路の並木道には、新緑が芽生えはじめた。
ゴールデンウィークもあけた今、クラスの大半の子は部活を決めている。
ゆきりんは新聞部、ありさちゃんは演劇部、茜ちゃんはバスケ部だって。
ちなみに、わたしはといえば、結局帰宅部なの……!
ルカに相談をしたら、
『部活? いや、そもそもの前提として、キミには入る権利なんてないけれど? キミ、ボクの召使いだっていう自分の立場を忘れたの?』と黒い微笑で圧をかけられたんだよね……しくしく。
まぁ、やりたいこともこれといってなかったし。なによりもキューピットさまにお仕えできること自体が幸せだからそのこと自体は気にしていないんだけど……重大な問題が別にある。
ルカってば、カンジンの縁結びにも、全くやる気がな~~い!!
「ルカ、ゴールデンウィーク中、マンガを読んでしかいなかったんだよね……」
『縁結び活動はどうしたの!? そんなんじゃ一生神界に帰れないよ!』ってけしかけても、『人間の身体って疲れるんだよねぇ。いま良いシーンだから、ちょっと黙っててくれる?』と、マンガにはりついていて全く相手にしてもらえなかった……。
「えーっ。それってぇ、天堂くんと毎日会ってたってこと~?」
「わお。天堂くんと奈々ってば、ラブラブなんだねぇ。よし。彼のファンが泣いていたら、代わりにアタシがなぐさめてあげねば!」
「今度、新聞部で天堂くん特集させてもらえないかなぁ? 『イケメン新入生天堂くんは、なぜ平凡ガール大神奈々を溺愛するのか!?』って見出しでどう!?」
ダメだーっ!
ゆきりんも茜ちゃんもまともに話を聞いてくれない! っていうか、なにその特集タイトル、わたしにとっては公開処刑でしかないよ!!
「奈々は良いなぁ。好きな人と両想いなんて、うらやましい」
ありさちゃんのため息は、なんだか切実そうだし……。
でも、この前、ありさちゃんの恋バナになった時に『あたし!? い、いないよ! す、す、す、好きな人なんているわけないっ!!』って必死に否定していたんだよなぁ。
ルカと契約を交わしてから、かれこれ三週間近く。
放課後になると、ルカは、必ずわたしを教室まで迎えにきてくれる。
『奈々、迎えにきたよ』
はたから見ていると、王子さまから愛されていて、うらやましすぎる立場に見えなくもない……。
のだけれども、実際は、散々こき使われまくっているだけ!!
図書館からマンガを借りてきたり、ハーブティーを淹れたり、ルカ家の片付けをしたり、突然『肩が凝った』といいはじめるルカの肩揉みをしたり……!
ねえ、ちょっと思い返しただけでも、使われすぎじゃない!?
そーゆーわけで、みんなが想像しているような、あまーいやり取りなんて皆無も皆無!!
あ、いや。
ベツに望んでるわけじゃあないけれど……。
【へぇ。本当に、望んでいないの? あんなことや、そんなこと】
うわっ!?
ちょっと、ルカ!
勝手に人の心をのぞくの禁止!
直接、頭の中に語りかけてくるのもダメだって、この前、言ったばかりでしょ~!
【四六時中のぞいてるわけじゃないから安心してよ。それに、のぞいたところで、奈々は今日もアホっぽいこと考えてるなぁとしか思わないし】
ひどい!
【ふふ。放課後になったら、また迎えにいくからね】
そう。
あの契約を交わしてからというものの、なんと、ルカに心の声まで読まれるようになってしまったの!
そんなの契約した時には聞いてなかった~~!
*
今日の放課後は、いったい、何冊のマンガを借りてくればいいんだろ。
マズいマズい。
自然にこんなことを考えるなんて、すっかりルカに洗脳されちゃってるな。
気を取り直して、歴史の授業を受けていた時に、ビックリするような出来事が起きたんだ。
きっかけは、ありさちゃんが、机から筆箱を落っことしちゃたこと。
筆箱の中身がじゃらじゃらと散らばったその音は、午後の眠たげな教室でけっこう目立ってしまって。
当のありさちゃんも呆然としていた時、通路をはさんで、隣の席にいたメガネくん――水谷くんが誰よりも早く立ち上がったんだ。
即座に拾おうとした彼は、後方にいたわたしから見てもすっごく好印象だったんだけど……、
「触らないで!!」
当のありさちゃんから飛び出たのは、火花が散るようなキツい言葉。
水谷くんは、すぐに動きを止めた。
教室全体が重たい沈黙につつまれる。
訪れた不穏な静寂に、同じ場にいるわたしまで息苦しいような気持ちがした。
歴史のおじいちゃん先生が、のんびりと首をかしげる。
「鏡見さん? どうかしましたか?」
耳が遠くて、ありさちゃんの言葉の内容までは聞こえなかったらしい。
ありさちゃんの背中は、心細そうに震えていた。
「あ、いや。な、なんでもないです……」
それから、急いで落としてしまった筆箱と中身を拾いあつめて、水谷くんのことは完全に無視。
落としものを拾おうとして立ち上がった彼は、何事もなかったように淡々と自席に戻ったんだ。
その表情は、相変わらず、長い前髪と分厚いメガネに隠されていて分からなかったけれど。
あんな風に拒絶されたら、誰だって傷つくよね。
動じていないように見える水谷くんだって、きっと……。
だけど、ありさちゃんだって、理由もなく人を傷つけるような子じゃないはずだ。
ありさちゃんは周りを気遣えるやさしい子だから。
二人の間には、なにか事情があるのかもしれない。
その授業の間中、わたしの胸まで、切りつけられたように痛んでいたんだ。
ゴールデンウィークもあけた今、クラスの大半の子は部活を決めている。
ゆきりんは新聞部、ありさちゃんは演劇部、茜ちゃんはバスケ部だって。
ちなみに、わたしはといえば、結局帰宅部なの……!
ルカに相談をしたら、
『部活? いや、そもそもの前提として、キミには入る権利なんてないけれど? キミ、ボクの召使いだっていう自分の立場を忘れたの?』と黒い微笑で圧をかけられたんだよね……しくしく。
まぁ、やりたいこともこれといってなかったし。なによりもキューピットさまにお仕えできること自体が幸せだからそのこと自体は気にしていないんだけど……重大な問題が別にある。
ルカってば、カンジンの縁結びにも、全くやる気がな~~い!!
「ルカ、ゴールデンウィーク中、マンガを読んでしかいなかったんだよね……」
『縁結び活動はどうしたの!? そんなんじゃ一生神界に帰れないよ!』ってけしかけても、『人間の身体って疲れるんだよねぇ。いま良いシーンだから、ちょっと黙っててくれる?』と、マンガにはりついていて全く相手にしてもらえなかった……。
「えーっ。それってぇ、天堂くんと毎日会ってたってこと~?」
「わお。天堂くんと奈々ってば、ラブラブなんだねぇ。よし。彼のファンが泣いていたら、代わりにアタシがなぐさめてあげねば!」
「今度、新聞部で天堂くん特集させてもらえないかなぁ? 『イケメン新入生天堂くんは、なぜ平凡ガール大神奈々を溺愛するのか!?』って見出しでどう!?」
ダメだーっ!
ゆきりんも茜ちゃんもまともに話を聞いてくれない! っていうか、なにその特集タイトル、わたしにとっては公開処刑でしかないよ!!
「奈々は良いなぁ。好きな人と両想いなんて、うらやましい」
ありさちゃんのため息は、なんだか切実そうだし……。
でも、この前、ありさちゃんの恋バナになった時に『あたし!? い、いないよ! す、す、す、好きな人なんているわけないっ!!』って必死に否定していたんだよなぁ。
ルカと契約を交わしてから、かれこれ三週間近く。
放課後になると、ルカは、必ずわたしを教室まで迎えにきてくれる。
『奈々、迎えにきたよ』
はたから見ていると、王子さまから愛されていて、うらやましすぎる立場に見えなくもない……。
のだけれども、実際は、散々こき使われまくっているだけ!!
図書館からマンガを借りてきたり、ハーブティーを淹れたり、ルカ家の片付けをしたり、突然『肩が凝った』といいはじめるルカの肩揉みをしたり……!
ねえ、ちょっと思い返しただけでも、使われすぎじゃない!?
そーゆーわけで、みんなが想像しているような、あまーいやり取りなんて皆無も皆無!!
あ、いや。
ベツに望んでるわけじゃあないけれど……。
【へぇ。本当に、望んでいないの? あんなことや、そんなこと】
うわっ!?
ちょっと、ルカ!
勝手に人の心をのぞくの禁止!
直接、頭の中に語りかけてくるのもダメだって、この前、言ったばかりでしょ~!
【四六時中のぞいてるわけじゃないから安心してよ。それに、のぞいたところで、奈々は今日もアホっぽいこと考えてるなぁとしか思わないし】
ひどい!
【ふふ。放課後になったら、また迎えにいくからね】
そう。
あの契約を交わしてからというものの、なんと、ルカに心の声まで読まれるようになってしまったの!
そんなの契約した時には聞いてなかった~~!
*
今日の放課後は、いったい、何冊のマンガを借りてくればいいんだろ。
マズいマズい。
自然にこんなことを考えるなんて、すっかりルカに洗脳されちゃってるな。
気を取り直して、歴史の授業を受けていた時に、ビックリするような出来事が起きたんだ。
きっかけは、ありさちゃんが、机から筆箱を落っことしちゃたこと。
筆箱の中身がじゃらじゃらと散らばったその音は、午後の眠たげな教室でけっこう目立ってしまって。
当のありさちゃんも呆然としていた時、通路をはさんで、隣の席にいたメガネくん――水谷くんが誰よりも早く立ち上がったんだ。
即座に拾おうとした彼は、後方にいたわたしから見てもすっごく好印象だったんだけど……、
「触らないで!!」
当のありさちゃんから飛び出たのは、火花が散るようなキツい言葉。
水谷くんは、すぐに動きを止めた。
教室全体が重たい沈黙につつまれる。
訪れた不穏な静寂に、同じ場にいるわたしまで息苦しいような気持ちがした。
歴史のおじいちゃん先生が、のんびりと首をかしげる。
「鏡見さん? どうかしましたか?」
耳が遠くて、ありさちゃんの言葉の内容までは聞こえなかったらしい。
ありさちゃんの背中は、心細そうに震えていた。
「あ、いや。な、なんでもないです……」
それから、急いで落としてしまった筆箱と中身を拾いあつめて、水谷くんのことは完全に無視。
落としものを拾おうとして立ち上がった彼は、何事もなかったように淡々と自席に戻ったんだ。
その表情は、相変わらず、長い前髪と分厚いメガネに隠されていて分からなかったけれど。
あんな風に拒絶されたら、誰だって傷つくよね。
動じていないように見える水谷くんだって、きっと……。
だけど、ありさちゃんだって、理由もなく人を傷つけるような子じゃないはずだ。
ありさちゃんは周りを気遣えるやさしい子だから。
二人の間には、なにか事情があるのかもしれない。
その授業の間中、わたしの胸まで、切りつけられたように痛んでいたんだ。