男嫌いと噂の美人秘書はエリート副社長に一夜から始まる恋に落とされる。
 それから社内を一通り案内したころには、私の退社時刻はすぐそこまで迫っていた。

「では、明日からよろしくお願いいたします」

 副社長をお部屋に送って行って、私はぺこりと頭を下げる。

 さて、この後は着替えたり帰宅の準備をしなくては。

(今日はなに食べようかな……)

 正直、色々な意味で疲れていて、ご飯を作る気力はない。

 どうせだし、久々に外食、もしくはコンビニとかスーパーでお弁当でも買って帰ろうかな……と思っていたとき。

 不意に「香坂さん」と声をかけられた。

「……どう、なさいました?」

 振り向いて、私はほかでもない副社長のほうを見つめる。

 彼は少し困ったように眉を下げた。かと思えば、意を決したように口を開く。

「その、嫌だったら断ってもらって構わないんですが……」
「……は、はい」
「この後、よかったら食事でも行きませんか?」

 ……一秒、二秒、三秒。三十秒。

 私は副社長の言葉を理解するのにかなりの時間を要した。

 そして、理解した瞬間。頭の中が真っ白になる。

(え、お、お食事? 副社長と……?)

 彼を見つめてぽかんとする。副社長は、気まずそうに頬を掻いていらっしゃった。

「今日のお礼ということで、奢りますので……」

 私は別に奢ってもらいたいわけではないのだけれど。
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