男嫌いと噂の美人秘書はエリート副社長に一夜から始まる恋に落とされる。
 私のお母さんは、一ヶ月と少し前。お風呂場で転んだ。あまりにも痛いというので、救急車を呼んで病院に運ばれて――まさかの、入院となったのだ。

 打撲だけならばよかったのに、骨が折れているということ。しかも、手術が必要とまで言われた。

(術後、あんまりよくないみたいだしね……)

 そう思いつつ、私はお母さんに視線を向ける。すると、お母さんは不意に「あっ」と声を上げた。

「そういえば、杏珠。あの話、どうなったの?」

 ……お母さんのその言葉に、私の頬がピクリと動いた。

「あの話って……?」
「あの話はあの話でしょう。彼氏を連れてくるっていう話」

 ……忘れていてほしかった。

 だって、あれは――その場を切り抜けるためについた、いわば嘘なのだから。
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