男嫌いと噂の美人秘書はエリート副社長に一夜から始まる恋に落とされる。
「というわけだ。丞には明日から業務にあたってもらうとして、今日は本社ビルの見学でも……と思っていてね。香坂さん、案内役を頼めるかい?」

 なんてことない風に、社長がそう問いかけてこられる。

 あ、案内役……。普段ならば、特に考えることなく引き受けただろう。

 でも、けど。

(いいえ、私は社会人なのよ。それに、そんな好き嫌いでお仕事を選べるような立場ではないじゃない)

 それに、今後は社長の甥っ子さんと一緒に業務にあたるのだ。今のうちに、少しくらい慣れておくのは必要だと思う。

 そう思って、私は静かに頷いた。

「そうかい。では、丞。今日のところは香坂さんに従ってくれ。香坂さん、頼むよ」
「は、はい」

 それだけをおっしゃって、社長がにっこりと笑われた。

 これは、もうお話は終わりということだろう。それを悟って、私は社長の甥っ子さん……副社長に視線を向ける。

 私は女性としては長身の部類で、百七十手前ほどの背丈がある。なのに、そんな私でも見上げなければならないほどの長身。

(学生時代はスポーツをやっていらっしゃったのよね。なに、なさっていたのかしら?)

 社長にある程度の情報はいただいていたので、会話のネタに困ることはなさそうだ。

 問題があるとすれば……やっぱり、私の態度。この動揺を、いかにして隠すか。そこが焦点。

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