強引な御曹司社長は色気のない女刑事にご執心!
 彼女は目を細めて少女を見た。
 狭い取り調べ室の中、金髪の少女は悪びれもせず足を組んでパイプ椅子に座っている。

 売春の一斉摘発で捕まえた女性の中に、彼女がいたのだ。
 少女はまったく反省していない。それどころか、なぜ補導されたのかも理解していなさそうだ。

「もう一度名前を聞かせて」
海老田璃々奈(えびたりりな)

「年齢は」
「16歳。さっきも言ったじゃん」
 確認のために、何度か聞く場合がある。隠そうとして虚偽を繰り返すことがあるからだ。

「そういえば、おばさんの名前は? 刑事なの?」
「おばさんじゃないわ。雛川咲弥(ひなかわさくや)。刑事よ」

「男みたいな名前」
 咲弥は苦笑いを返した。いつも言われていることだ。168センチの背の高さもあいまって、男扱いされることもある。

「咲弥っちは何歳なの?」
 璃々奈が聞いてくる。
「29歳」
「やっぱおばさんじゃん。女として終わってる」
 笑いながら言われて、かちんとくる。

「あっれー、若さに嫉妬した? おばさんには買ってくれる相手もいないもんね!」
「そういう問題じゃないの。体を売るって、結局はあなたが傷付くのよ」

「減るもんじゃないし」
「将来、後悔するのよ」

「しないもん。推しに会うほうが大事だから」
 つん、と横を向く。
 彼女はホストにはまり、店に通うために売春をしていたという。



 疲れ果てて取調室を出ると、同い年の刑事、初間諒也(はつまりょうや)が寄って来た。スーツはよれて、頭はぼさぼさになっていた。人の良さそうな顔には濃い疲労が浮かんでいる。

「どうだった?」
「ぜんっぜん、わかってない。なにがダメなのか、とかいろいろ。考え方が刹那的だし」

「異星人を相手にしてる気分になるときあるよねえ」
 うんうん、と諒也はうなずく。
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