強引な御曹司社長は色気のない女刑事にご執心!
 500人でどうやって親睦を深めるのか、咲弥にはまったく見当もつかない。1人1分話したとしても500人が相手なら500分。8時間ちょっとかかる計算になる。

「お金を出せば警備員を雇えるおぼっちゃんより、善良な市民を守りたいわ」

 咲弥は獅子堂開発株式会社のサイトをスマホで確認した。
 会社のサイトに彼の写真が載っていた。かなりのイケメンだ。黒髪はサイドに分け目に入ったアップバングだ。フォーマルな印象を与えながらも若々しい。切れ長の目は黒。シャープなラインの頬に、薄い唇が笑みを刻んでいる。

 うさんくさい、と咲弥は思った。イケメンすぎてなんだか信用ができない。
 どうせ女にモテて、女を見下しているに違いないのだ。

 本社ビルは丸みを帯びたおしゃれな造りだった。壁とガラスの反射で、全体がブルーグレーに見える。下層階には商業施設があり、美術館も中に入っているという。

 ビルの前は広々と空間がとられ、緑が茂っている。
 広場の中心には有名な男性彫刻家が作った裸の女神像があった。

 咲弥はげんなりした。
 男どもはいつも芸術のお題目で女性の裸体をさらしものにする。できるならあの彫刻家をわいせつ物陳列罪で逮捕してやりたい。

 本社ビルに着いて受付に来訪を告げる。ゲストの入館証を渡され、あちらのエレベーターです、と言われた。
 エレベーターで最上階の55階、役員エリアに着く。
 そこにもまた受付があった。

「警察です。獅子堂氏の護衛の件で」
 手帳を見せて言うと、受付嬢はにこやかに部屋まで案内してくれた。
 ドアをノックすると、すぐに返事があった。

「失礼します」
 咲弥は諒也とともに部屋に入る。

 広い部屋だった。
 水色の絨毯の奥、大きな窓ガラスの近くに背の高い男が立っていた。良し悪しがわからない咲弥でも高そうだとわかるスーツだった。

 彼が振り返ると、鋭い目が咲弥を見た。
 咲弥は思わずその目をにらみ返す。
 と、彼はふっと目を緩めた。口元に浮かぶ微笑に、咲弥はけげんに彼を見る。

「お待ちしていた」
 彼は言う。
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