強引な御曹司社長は色気のない女刑事にご執心!
「雛川咲弥です。こちらは初間諒也」
「俺の警護についてくれるとか」
「そういう命令を受けたので」
 咲弥が言うと、彼はクッと笑った。

「嫌そうだな」
 咲弥は答えなかった。

「脅迫メールが届いたそうですね」
「それで予告日となった明日だけ、警察に警護を頼んだ」

 課長からは明日だけとは言われなかったのだが。
 いつもの嫌がらせだろう、と咲弥はうんざりした。久之はなにかと咲弥を敵対視してくる。

「本当なら護衛なんていらないんだけどな。社員が心配するから」
 彼が笑うように言うので、咲弥はむっとした。

「彼は実戦的なフルコンタクト空手の有段者だそうだよ」
 諒也がこそっと咲弥の耳に囁く。フルコンタクトということは、実際に相手に攻撃を当てる空手だ。

「結局は習い事じゃない」
 実戦にはルールもなく審判もいない。勝利を宣言されたら終わる試合とは違う。本気で攻撃する犯人に対して有効だとは思えない。
 悠雅は笑いを浮かべたまま咲弥に歩み寄る。

「君には明日、恋人のふりでもしてもらおうか」
 咲弥はまたむっとした。見下ろされるのも気に入らなかった。

「そんな必要ないですよね」
「恋人なら一緒に歩くのが自然だろう?」
「護衛だと、そう言えばいいだけです」
「うちが主催のレセプションで来場者に不安を与えたくない。護衛であることは隠してくれ」
「はあ?」
 命が危ないのに、そんなことにかまっている場合だろうか。

「明日はおしゃれをしてきてくれ。そんな野暮なスーツではなく」
 咲弥ははりのなくなった紺のパンツスーツを着て、くたびれたスニーカーを履いていた。捜査で着倒した結果だ。

「護衛なんですから」
「君より俺のほうが強いと思うけどな」

「女だからってなめてますよね。実践的な逮捕術、その身で確認してみますか」
 咲弥は身構えて彼を見据えた。
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