強引な御曹司社長は色気のない女刑事にご執心!
「こちらにいる間は危険もないだろうから、自由に過ごしてくれ」
「そういわけにはいきません」
「真面目だな」
 彼は笑みに目を細めた。
 うさんくさい笑顔だ、と咲弥は仏頂面でそれを眺める。

「美人なのに、そんな顔をしていたらもったいないぞ」
「な!」
 咲弥は動揺するが、諒也は隣で頷いた。

「そうですよねえ。でも美人だってこと認めないんですよ」
「お世辞を真に受けるほど馬鹿じゃないわよ」
「世辞ではないが、そのかっこうではいつまでも原石のままだろうな」
 ククッと彼は笑う。

 地味なパンツスーツに、胸まであるロングヘアは後ろで一つに結んでいる。ロングヘアは、男みたいだと言われることへのせめてもの抵抗だった。自分が女に見られたい未練があるようで嫌になるときもあるのだが。

 やっぱり苦手だ、と咲弥は改めて思った。
 女の扱いに慣れていて、だから平然と誉め言葉を言えるのだろう。
 こういうやつは女を泣かせていてばっかりで、きっと女の敵だ。

 だけど、仕事だから守らなくてはならない。
 今日だけのことだ、と自分に言い聞かせる。今日だけ守りきれば、もうこの男には会わなくてすむ。
 もし本当に襲撃者がいるのなら、彼もまた市民の一人、咲弥には守る義務がある。

「パーティーより大事な物があるでしょうに」
 思わずつぶやいていた。
「俺は再開発計画を大事にしているんだ」
 咲弥は彼を見た。彼は真剣な顔で彼女を見返す。

「俺の育った大好きな町だ。治安が悪いだなんて言われるのが嫌だからな」
 意外だった。彼がそんな理想に燃えているなど思いもしなかった。
 彼もまた、平和を守ろうとしている。
 ただの嫌な男じゃないのかも。咲弥はちょっと彼を見直した。



 午後三時になると、彼は会場に向けて出発する、はずだったのだが。
「寄るところができた。一緒に来てくれ」
 そう言われた。
 護衛としては同行するしかない。
 彼が向かったのは女性向けの服を扱うハイブランドの店だった。
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