あやかし外交官は愛する身代わり妻と離婚したい
 沖重が金髪の青年にも手をついて謝る。
「本当に申し訳ございません! すべては私の責任です。日本に瑞穂之国と争う意志はありません、どうかご理解ください!」

「良い退屈しのぎになった。許す」
 金髪の青年がククク、と笑う。デンカと同じ声と笑い方で、やはり静穂は戸惑った。
「退屈なら仕事してください」
 雷刀の言葉に、青年は答えなかった。

「俺がかけた術が解けてる!」
「ばかもん!」
 がん、と沖重が風磨の頭を殴る。

「殴るのはやめてあげてください」
 思わず静穂は言う。もしかしてあんなに頭を殴るから……とも思ってしまう。

「やっぱり俺のこと」
「違うから」
 すべては言わせず、速攻で否定した。

 風磨はしょんぼりうなだれる。

「いろいろとわからないんですけど」
 静穂が戸惑って雷刀を見る。

「説明はあとにしましょう。先にあなたの手当てを」
「早く彼女を驚かせたいものだがな」
 ククク、とデンカと呼ばれた男性が笑う。

「とにかく、もう大丈夫ってことでいいんですね?」
 雷刀がうなずくのを見て、静穂はほっと息をついた。



 すでに日は暮れていた。
 静穂は牛車に乗せられた。
 本物の牛車と違い、空を飛んだので驚いた。

「あなたのご両親に連絡して了承をもらいました。今日は私の家に泊っていってください」
「で、でも」
 うろたえる静穂に、雷刀はくすりと笑う。

「なにもしませんから、安心してください」
「わかりました」
 静穂は居心地悪く、しぶしぶうなずいた。

 空飛ぶ牛車は静かに屋敷の庭に舞い降りる。雷刀の瑞穂之国での自宅だった。

 屋敷では一室に待機していた女性の河童から薬をもらい、したたかに打ち付けたお腹に塗る。

 みるみるうちに痛みが引いていった。
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