あやかし外交官は愛する身代わり妻と離婚したい
「封印はもう大丈夫なんですか?」
 静穂がたずねると、デンカはうなずいた。

「師匠とやらに解かせた。自力で破っても良かったが、解呪させたほうが楽だからな」
「そうなんですね」
 そこで、ふと気が付く。

 自分はデンカを抱きしめたことがあるような。
 つまりは、自分から男性を抱きしめたことになるのでは。
 静穂の頬が赤くなる。

「どうしたんですか?」
 雷刀が不審にたずねる。

「な、なんでもないです」
 恥ずかしくて、こんなこと言えるわけがない。

「己の浅慮に気が付いたというところか」
 ククク、とデンカが笑う。

「私がバカなのはわかったから、もう言わないで」
 静穂は両手で顔を覆った。

「殿下はもう少しおいたを控えてくださいませ」
「雷刀は固いな。意中の女の前でそのような話をするようでは、一生、口説けぬぞ」

「ほうっておいてください」
 雷刀がふてくされた。

 静穂は耳を疑った。
 今、意中の女の前って言った?
 誰のこと?
 でもここにいる女性は自分だけだ。

「そろそろ食事にしましょう」
 雷刀がごまかすように言う。

 彼が隣室に声をかけると、待機していた着物の女性がお膳を運んできた。

 雷刀は明るい話題をふり、静穂は楽しくおいしい夕餉をいただいた。

 離婚はどうなるんだろうという不安は、見ないふりをして一晩を過ごした。


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