あやかし外交官は愛する身代わり妻と離婚したい
「おにいちゃん、外国の人? 髪の色がちょっと違う」
 神社の階段に座り、少女はきいた。

 わたあめをちぎっては彼に渡し、自分も頬張る。

「そうですね」
 雷刀はあいまいに答えた。

「日本語うまいのね!」
「ありがとうございます」
 雷刀は苦笑した。瑞穂之国はかつて日本から分離した。日本語はうまくて当たり前だ。

「おにいちゃんの国はどんなところなの?」
「平和ですよ。のどかで、みんな優しくて」
「みんな優しいのっていいね」
 少女はまたにこっと笑った。

 二人はわたあめがなくなっても話し続けた。
 少女のきらきらした笑顔に、雷刀の心は和む一方だった。

「かほー! しずほー!」
 女性の大きな声が聞こえた。
 少女は声のほうへ顔を向けた。

「かほー!」
 再び声がする。

「お母さんだ」
 少女が雷刀に言った。

 かほ、という呼びかけに反応したため、雷刀は彼女がかほという名前なのだと思った。

「じゃあね!」
 彼女は雷刀に手を振って人混みに入っていった。

 人垣の隙間から、母らしき女性に抱きつく彼女が見えた。

 かほ、と雷刀はつぶやいた。
 少女の姿は彼の心に温かな火を灯した。



 雷刀は瑞穂之国に戻ってからも少女が気になっていた。

 恋をした、と気がついたときには絶望した。人間の世界の名前しか知らない少女だ。

 あやかしは基本的に年齢や外見で恋をしない。その人の魂がどれだけ輝いているかが魅力につながる。

 少女の魂は美しく優しく輝いていた。そのきらめきが、雷刀は忘れられなかった。

 そんなおり、人間の世界と瑞穂之国が繋がった。
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