あやかし外交官は愛する身代わり妻と離婚したい
「無理すんなって」
 囲んだうちの一人が笑いながら言う。

「退魔師ってのも嘘だろ?」
 別の一人が言う。

「マジだって! 今日だって、授業が終わったらあやかし退治に行くんだ。俺はすべての妖怪を退治して退魔師キングになる!」

「そりゃすげえ」
 仲間がゲラゲラと笑う。

「ファイナル・クライマックス退魔師、爆誕!」
 彼は真面目な顔でポーズを決めた。

 うわあ、恥ずかしい。
 静穂は他人ながら羞恥を覚えた。将来、布団をかぶってもだえることになりそうなセリフだ。

「いまだにいるんだ、あんなの。河童がすごい万能薬を持ってるらしいけど、さすがにあれは治らないよね」
 沙彩はあきれてつぶやいた。

「そもそも、あやかしイコール悪じゃないよね」
「人と同じ、いい人も悪い人もいるんだって。おじいちゃんが言ってた」

「あいつに倒されるあやかしはいない気がする」
「そうだね」
 強そうには見えないのは静穂も同意だった。

「あいつとの恋だけはないわ」
 沙彩が言って、あやかしの話は終わった。その後は二人で授業やバイトの話をして笑った。



 授業を終えて帰るときだった。
 門のあたりに女性が集まってきゃあきゃあ騒いでいるのが見えた。

「芸能人でも来てそうな騒ぎだね」
「イケメンが来てるといいな」
 沙彩の声は弾んでいた。

 固まって騒ぐ女子学生を横目に門にさしかかったときだった。

「花帆さん!」
 男性の声がかかり、静穂は立ち止まった。

「待っていましたよ。こちらへ」
「あ!」
 静穂は声を上げた。

 写真でしか見たことのない自分の夫、雷刀だった。
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