あやかし捜索係は、やがて皇太子に溺愛される



「真っ暗な夜空に、白くて長い蛇がうねりながら飛んでいたらしい」
「普通、蛇は飛ばない生き物だから、それもあやかしだったってこと?」
「おそらく。ただ話はそれで終わらねーんだよ」

 急に怪談話のような雰囲気を醸し出した三々に、朱璃もゴクリと唾を呑む。
 そして見たことがないあやかし情報に、つい興味津々な目をしていた伯蓮も、いつの間にか真剣に話を聞いていた。

「その蛇のようなあやかしが突然二匹の元に降り立って、片方のあやかしを攫っていったんだ」
「え! あやかしの誘拐事件!」
「なんと……あやかしの世界も治安が脅かされているのか?」

 誘拐なんて許せないと憤る朱璃と、安心して生活できないあやかしの世界を深憂する伯蓮。
 何より、目の前で誘拐を目撃したあやかしは眠れぬ夜を過ごしたに違いない。
 そんな思いから、朱璃は迷わず挙手した。

「そのあやかし、私が探してくるよ!」
「え?」
「だって私は、伯蓮様直々に任命された“あやかし捜索係”だからね!」

 誇らしげに宣言して伯蓮の顔色を窺った朱璃が、いきいきとした笑みを浮かべている。
 しかし、三々の今の話だけでは情報が少なく危険度もわからない。
 そんな懸念点を抱きながらも、朱璃の前向きな気持ちを尊重したい伯蓮はその背中を後押しした。

「私もできることは手伝おう。貂々と三々も協力を願う」
「……仕方ないな。王宮内の治安を守るのも元皇帝の務めだ」
「俺はあちこち飛び回って情報かき集めてくるぜ!」

 頼もしいあやかしたちの言葉を聞いて、団結力の強まりを感じた。
 ただ、あやかし捜索中に姿を消した前例のある朱璃を心配して、伯蓮はその頬にそっと触れる。

「朱璃、無理だけはしないと約束してくれ」
「っ……⁉︎ だ、大丈夫ですよ。貂々と三々もいますし……」
「夕餉までには必ず私の元に帰ってくること、その日の出来事を報告すること。それから……」

 言いながら、今度は朱璃の髪をさらりと手に取って、自分の唇に寄せて口付ける伯蓮。
 その光景に目眩を起こした朱璃は、顔を真っ赤にして首を縦にブンブンと振るのがやっとだった。
 目の前でいちゃいちゃを見せつけられた貂々と三々は、やれやれという表情でため息を漏らす。

 何はともあれ、再び訪れたあやかし捜索係としての務めを果たすべく。
 朱璃はまたしても、王宮内を駆け巡ることになったのだが。
 それはまた、朱璃と伯蓮の恋模様と共に、別の話ということで――。





 了




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