あやかし捜索係は、やがて皇太子に溺愛される



 先日も感じた、伯蓮に対しての違和感。
 やはりそれは間違っていなくて、この国の皇太子である伯蓮も、あやかしが視える人だったのだ。
 周りの宦官らも、そして尚華も何が行われているのか視えない中、体を起こしてその場に正座した朱璃だけが、伯蓮の行動に理解を示す。

「……あり、がとうございます……」
「……名を、何と申す?」
「名? え……と、貂々です」

 戸惑い混じりに答えると、なぜか伯蓮はクスッと笑ったように口元を手で隠した。
 そしてもう一度、次はわかりやすく質問する。

「そうではない。お前の名だ」
「あ、私ですか……? 朱璃、と申します」
「朱璃。早速だがお前に頼みがある」
「え?」
「聞き入れてくれるか?」

 伯蓮の柔らかい声に絆されて、考える間もなく朱璃の首が縦に動いてしまった。
 何でも手に入るであろう一国の皇太子が、下女の自分に頼み事とは一体何だろう。
 そう思いながらも、必要とされたことに朱璃は喜びを感じ、鼓動はいつもより強く脈打つ。
 そんな二人の意味不明な会話に苛立ちを覚えた尚華は、悔しさを滲ませた。

「伯蓮様! コソコソと何の話を――!」
「この下女は今日から私の宮で働いてもらうことになった」
「は、何ですって⁉︎」
「問題ないだろう。何せ妃も存じていなかった下女なのだから」
「っ……!」

 何も言い返すことができない尚華は、先ほど投げ損ねた扇子を今にも折りそうなくらいに握る。
 険悪な雰囲気は部屋の外で待機する宦官らも感じていて、これはもう初夜どころではなくなった。
 しかし伯蓮だけがそれを良しと考えていて、抱っこしていた貂々を肩に乗せると、
 自由になった両手で今度は、朱璃の肩を支えて立ち上がらせた。

「今から私の宮にきてもらうぞ」
「い、今からですか⁉︎」
「できるな?」
「は、はい……!」

 皇太子の無茶振りを、従わないわけにはいかない朱璃が元気よく返事をする。
 その様子に、自然と微笑みで応えてくれた伯蓮は、やはり尊敬に値する次期皇帝だと改めて思った。


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