あやかし捜索係は、やがて皇太子に溺愛される
「あああすみません! 出直してきましょうか⁉︎」
「いや、大丈夫だ。それよりも急ぎの大事な話があるのだ」
「急ぎ……」
伯蓮はそばにあった椅子に座るよう朱璃に指示を出し、自分も今一度姿勢を正した。
無自覚な色気が皇太子から放出される中、朱璃は恐縮しながらも心臓はドキドキと音を立てる。
「そう緊張しなくても良い」
「は、はい。しかし……」
「“あやかしが視える”者同士、仲良くしていこうではないか」
言いながらニコリと微笑んだ伯蓮は、今までの大人な雰囲気とは少し違い、朱璃と同い年だということを思い出させた。
同時に、先日の分と先ほどの危機を救ってもらった分のお礼が、ようやくできるとも。
「あの、二度も助けていただきありがとうございました」
「礼など不要だ。それにお前は貂々を止めようとしていただけだろう」
「はい……」
「私にはそれが視えていた。それに……実は感謝したいのは私の方だ」
すると伯蓮が俯いたまま無言になるので、朱璃は心配しながらも様子を窺っていると。
やがて、恥じらいの顔を浮かべながらポツリと呟いた。
「その……私はあまり乗り気ではなかったのだ」
「へ?」
「今夜の、尚華妃との閨事を……」
「え……あ! さ、左様でしたか!」
つまり初夜を迎えようとしていた伯蓮は、尚華妃との閨事を望んではおらず、
朱璃の侵入事件は有難い妨害だったと、いうことらしい。
だから尚華妃の部屋の前で、あんな暗い顔をしていたのかと納得した朱璃だが。
なんだかこちらまで恥ずかしくなってきて、それを誤魔化すように饒舌多弁になる。
「あああの貂々というあやかしとは華応宮内で初めて出会いまして、いつも中庭の木の上で昼寝をしている子なんです!」
「え?」
「最近は急に予測不可能な行動に出るので危なっかしいと思っていたんですけど、普段は大人しくてもふもふしていて可愛いんです!」
必死に話題を変えたつもりだが、相手は皇太子だ。
もっと丁寧かつ上品な話し方で接するべきだったと、朱璃は反省する。
しかし伯蓮にとっては、そんな朱璃の対応はとても新鮮で楽しさを感じていた。
そして話題に出てきた貂々について、伯蓮からも報告を受ける。