あやかし捜索係は、やがて皇太子に溺愛される
「ははっ、なんだその、面白い動きは……っ」
「え⁉︎ す、すみません……!」
「触れても問題ない。星は撫でられるのが好きらしいから」
「あ、ありがとうございます」
皇太子を笑わせるほど面白い動きをしていたのか、と自分でも少し恥ずかしくなった朱璃。
しかし、あまりに無防備な笑顔を咲かせた伯蓮を見て、緊張感は和らいでいく。
顔に熱を帯びていると自覚しながらも、気を取り直してそっと星に触れてみた。
「わあ……絹のような手触り……」
「そうだろう。なぜこうもあやかしは美しいのだろうな」
「本当ですね……一生推せる……」
互いに常日頃思っていた気持ちを吐露し、まるであやかしを愛でる会でも開催されているような現場と化していた。
――が、すぐに我に返った伯蓮が本題に入る。
「実は、星には“流”という名のつがいもいたのだが、三週間前から行方がわからなくて」
「え? もしかしてその流という子が、伯蓮様の心配するあやかしですか?」
「……ああ。探そうにも手がかりが何もなく、私も自由に動けない身で……」
かといって従者に頼める内容でもないことは、朱璃が一番よくわかっていた。
行方不明となったあやかしの捜索は、あやかしが視える者にしか務まらない。
伯蓮が言っていた「頼み」の意味を今ようやく理解して、勢いよく立ち上がった朱璃は胸を叩いた。
「わかりました! 私が“流”を探してきます!」
「引き受けてくれるか?」
「もちろんです! お任せください!」
ハキハキとした声で頼もしい言葉を発してくれた朱璃に、伯蓮は心から安堵して表情が緩む。
そしてそれは、実は朱璃も同じだった。
後宮にやってきて以降、理解されないこと前提で、あやかしの話を誰かに話したことはない。
それでも、確かにあやかしはここに存在していて、こんなに不思議で可愛い存在を共有できないことに苦しんでいたから。
(これからは伯蓮様と、あやかし語りができるかもしれない……!)
こうして後宮の下女だった朱璃は、皇太子自らの抜擢で侍女へと昇進した。
それと並行してあやかし捜索係にも就任したわけなのだが、その秘密の任務を知っている人間は。
今のところ、ここにいる二人だけ――。