あやかし捜索係は、やがて皇太子に溺愛される



「伯蓮様。昨夜の件、宰相が朝から説明を求めておりますが――」
「すまないが明日にしてほしい」
「宰相は尚華妃のお父上です。娘を心配するあまり早急にお応えした方がよろしいかと」

 そんな会話が徐々に近づいて、私室の扉前までやってきた。
 おそらく従者の一人が伯蓮に対して話を、というよりは指導をしているような内容で、朱璃もますます焦り出す。
 きっとこれは、自分のような侍女が耳にして良い話ではない。そう思ったから――。

「それだけではございません。後宮で働く下女を勝手にこちらの侍女に昇進させたとか……」
「働き者だったから採用したまで。問題ないだろう」
「大ありです。“初夜を妨害した下女”という点に、尚華様もお怒りでした」
「っ……」

 反論できず言葉を詰まらせた伯蓮の苦悩が、私室内で息を潜める朱璃にも伝わった。
 昨夜、部屋へと侵入する貂々を必死に阻止した朱璃。
 その行動を説明しようにも、あやかしが視えない人間には無意味だ。
 それでも朱璃を庇い、代わりに伯蓮が責められるこの状況はとても胸が痛む。

「とにかく、明日には必ず宰相と面会してくださいませ」
「……わかっている」
「そして今後も、尚華妃の宮へきちんと足を運んでいただきます」

 伯蓮にその気がないと気づいているにもかかわらず、従者は尚華との仲について圧をかけてきた。
 やがて一つの足音が立ち去っていくと辺りは静寂に包まれて、そして私室の扉が静かに開かれる。
 疲れた表情の伯蓮は小さな歩幅で室内に入ってくると、窓際の牀に腰掛けた。
 そこで深いため息をついた時、ふと視線を上げた先にいたのは、架子牀前で座り込む朱璃。

「⁉︎ 朱ッ……何故⁉︎」
「あああすみません! 星の絵を描きたくて遊びに来ていました!」

 言いながらその場に土下座して謝罪すると、伯蓮は少し記憶を戻して頭を抱えた。
 顔を上げた朱璃がその様子を見て、やはり聞かれたくなかった話を自分は聞いてしまったのだと推測する。


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