あやかし捜索係は、やがて皇太子に溺愛される
外廷と内廷を結ぶ大門を目指して、ゆっくり歩いている伯蓮と関韋。
その後ろには、外で待機していた従者らが黙って後をついてくる。
「関韋、親とは子の幸せを願うものであろう?」
「そうですね、大体の親は……」
「豪子は自分の娘の幸せを考えていないのか?」
己の野心と策略のために、娘が慕ってもいない男のもとに嫁がせるという考えが、伯蓮には理解できない。
しかし、そうやってこの国が大きく繁栄し四百年も続いていることを知っている。
先の皇帝も皇后も、皇太子も妃も、そうやって政略的な婚姻を繰り返し結んできたというのなら――。
「私もそれに従わなくてはいけない宿命なのか……」
まるで自分の人生を悲観したような伯蓮の表情は、隣の関韋を戸惑わせてしまった。
ただ、その関韋が一つだけ引っかかることといえば……。
「ですが、おそらく尚華妃は伯蓮様をお慕いしていると思います」
「……なに?」
「初めは父親の豪子の指示で後宮入りしたのかもしれませんが、今は……」
「っ……それは、困ったな」
驚いたように目を丸くしながら、困惑したように腕を組む伯蓮。
今までは豪子の手先として尚華と向き合い、なるべく接触のない方が互いのためと思っていた。
しかし、関韋の言っていることが本当ならば、伯蓮の今までの行動は尚華の心を深く傷つけている。
かといって、こういう関係である以上、優しくするのも誤解を生みそうで伯蓮は頭を悩ませた。
「尚華妃の気持ちには、どんなに時をかけようと応えられない……」
「気持ちに応えずとも、婚姻した以上はいずれ初夜を迎え子を成せねば。それが皇太子としての責務です」
代々、国を治めてきた鄧一族の血筋を繋ぐためにも子孫繁栄は怠ってはいけない。
侍従の関韋は、揺れる伯蓮の思いにしっかりと意見した。
しかし、それを望んでいない伯蓮にとっては、ただの迷惑なしきたり。
「ならば私は皇太子を……皇位継承権を手放したいな」
「っ……伯蓮様!」
「ふ、冗談だ。そんなことできるはずがないとわかっている」
関韋の慌てた顔を見て、少し気が晴れた伯蓮は一笑して先を歩き進む。
ただ、許されるなら――すでに舗装された石ころ一つない道を淡々と歩く人生よりも、
誰も歩いたことのない道なき道を、抗いながら懸命に歩く人生を。
伯蓮は進んでいきたいと強く思っていた。