あやかし捜索係は、やがて皇太子に溺愛される



  ***


 伯蓮が流の絵を描いてくれた日から一週間が経つ。
 朱璃は大事な絵を片手に持ち、皇子たちが住まう東宮区域を散策していた。
 朝餉を終えた従者や侍女たちが仕事場に戻っていく中、みんなには視えないあやかしを探す。
 そして、建物裏の茂みに隠れていた一匹のあやかしを見つけて、そっと駆け寄った。

「ねえ君。この空色のあやかし、見かけたことない?」
「キューキュー」

 朱璃が声をかけたのは、ヤモリの姿に蜻蛉のような羽が生えたあやかしだった。
 どうやら話せない子のようだったが、鳴き声とともに首を横に振ってくれたので「知らない」と答えていることが伝わった。
 礼を言って次のあやかしを探そうとした時、以前蒼山宮で出会った三々が朱璃の肩に乗ってくる。

「お前、そんな地道なことやってても見つからねーぞ?」
「三々! でも聞き込みして何か手掛かりを見つけないと……」

 それにはたくさんのあやかしに声をかけていく必要があるのだが、東宮区域だけでもたくさんの建造物と庭や池がある。
 もしも行方不明の流が、東宮区域さえも飛び出していたら、ますます発見から遠ざかってしまう。
 すると見かねた三々が、ある提案を持ちかけた。

「仕方ねぇ! 明日、内廷と外廷を結ぶ大門が閉まる鐘が鳴る頃に、池の涼亭に来い」
「え?」
「今から俺が、上空から見つけたあやかしに片っ端から声かけて集合をかける」
「それって……」

 鳩の姿をした視力抜群の三々であれば、東宮区域だけでなく、周辺の後宮や官庁街に棲みつくあやかしたちもすぐに見つけられるだろう。
 だから、できるだけたくさんのあやかしに集合をかけて、効率良く聞き込みできるよう作戦を立ててくれた。
 なんと頼もしい協力者の登場に、朱璃は万歳して喜びを爆発させる。

「ええー! ありがとう! それならみんなにまとめて聞き込みできるね」
「全く、これだから新人は……」

 蒼山宮の侍女として日の浅い朱璃を、新人として扱う三々。
 後宮に二年いたとはいえ、東宮区域は初めての朱璃にとっては不慣れも多い。
 それを心配して、力を貸してくれるという三々に感謝した。

「そうだ。もし時間があったら貂々にも声かけてほしいな」
「あ? 誰だ?」
「華応宮の中庭の木でいつも寝ているあやかしがいるの」

 だめ元ではあるけれど、後宮を離れてからは貂々不足だった朱璃がそんなお願いをすると、三々は渋々了承してくれた。


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