あやかし捜索係は、やがて皇太子に溺愛される



「うーん。勝手に宮城には入ることできないし、伯蓮様の許可を貰っても初めての場所だから……」
「朱璃の方が迷子になっちまいそうだな」
「へへ、そうなんだよね……」

 自分でもそう思っていた朱璃は、三々の見解を素直に受け入れた。
 ただ、流を心配する伯蓮のためにも、早く見つけ出してあげたい。
 何か策はないかと朱璃が唸った時、一番奥にいた一匹の蛙のあやかしが手を挙げた。

「昨日、そいつに似たあやかしを後宮内で見た」
「え⁉︎ 後宮?」

 今まで聞いた中で一番最近の目撃情報だが、その意外な場所に朱璃は驚く。
 昨日といえば、侍女になったことと勤務先が変わるからしばらく会えなくなる報告を貂々にするため、後宮に足を運んでいた朱璃。
 その時にはすでに、流は宮城を通過して後宮に入っていたことになる。

「後宮のどのあたりで見たの?」
「あれは……確か食堂の近くだったような」
「どんな様子だった?」
「うーん、困っているようには見えなかったよ」

 蛙のあやかしは見たままを正直に話している様子で、朱璃も真剣に話を聞いた。
 あやかしは基本的に食事を摂らないから空腹の心配はいらないし、寒暖差にも強いと三々に教えてもらった。
 そういう点では少し安心できたのだが、後宮まで大移動している目的がわからない。
 太陽の動きを見て、蒼山宮がある東を目指すこともできそうだけど、流がそれをしない理由は――。

「いや、考えても仕方ない。私は伯蓮様のために流を見つけて無事に帰すことが使命だから」

 本来の自分に課せられた任務を肝に銘じて、朱璃が気合い入魂の拳を作った時。
 何やらあやかしたちがざわざわと騒ぎはじめて、落ち着かない様子。
 どうしたのかと思っていると、屈んでいた朱璃の頭上から聞き覚えのある声が降ってきた。

「何をしている」
「ひああ⁉︎ は、伯蓮様⁉︎」

 宮に勤める者は皆寝静まる頃、従者もつけずに背後に立っていた伯蓮に、朱璃は心臓が飛び出るほどに驚いた。
 そもそも伯蓮にはあやかし集会のことを伝えていなかったのに、なぜこの場所がわかったのか。
 朱璃が不思議に思っていると、肩に乗っていた三々がぼそっと告げる。


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