あやかし捜索係は、やがて皇太子に溺愛される
「初めから尾行されていたぞ」
「え! 三々気づいていたの⁉︎」
「朱璃が全然気づいていないから、あえて黙っていた」
伯蓮に跡をつけられているなんて想像もしていなかった朱璃は、黙って出てきたことに後ろめたさを感じて視線を逸らす。
そんな反応にも不満が積もった伯蓮は、腕を組み威圧的な態度で尋ねた。
「なぜこんな集会があることを、私に黙っていた?」
「え、えーと。夜中の集会ですし、伯蓮様の翌日の公務に支障が出ては悪いと思い……」
「あやかしのことは共有するのではなかったのか?」
「う……それは……」
朱璃は、伯蓮が「こんな楽しい集会になぜ自分を呼んでくれなかったのか」と怒っていると思っていた。
しかし実際のところ、伯蓮にそんな嫉妬心は全くなくて、むしろ朱璃自身のことを心配していた。
王宮内だからといって決して安全ではない。派閥だ何だと水面下で繰り広げられる争いは充分存在している。
目障りな人間を陥れようと考える者も、いつどこで実行するかわからないのだから――。
「内廷とはいえ、一人で夜中に出歩くのは今後禁止だ」
「は、伯蓮様こそ従者もつけずにこんなところまで……」
「お前はおなごなのだぞっ、何かあったらどうする!」
「っ……!」
その危険性を知って欲しくて、伯蓮は今までで一番の切羽詰まった表情で訴える。
いつもと様子が違う伯蓮だということは朱璃にも伝わり、何も反論できずしゅんと落ち込んだ顔を見せた。
「……申し訳ありません、でした……」
「いや――私も強く言いすぎた、すまない」
「では今度から、このあやかし集会開催の際は、伯蓮様にも必ずお知らせいたします」
「……え? あ、ああ……?」
「伯蓮様は、あやかしのことになると本当に熱いお人ですね」
「…………。」
言いながら笑顔を浮かべた朱璃を前に、憮然とした表情で応えた伯蓮を三々だけが憐れに思った。
伯蓮の中では、朱璃を女性と認識していたからこそ出た台詞と心配の気持ち。
こんな夜更けに、陰険で傲慢な官吏にでも出くわしたら何をされるか、想像しただけで怒りが込み上げる。
それなのに、そんな伯蓮の複雑な心情にも全く気づけない朱璃は、あっけらかんとして話を続けた。