あやかし捜索係は、やがて皇太子に溺愛される
「それより! ついに流の目撃情報を手に入れました!」
「ほ、本当か?」
「昨日、後宮の食堂付近にいたらしいです!」
「後宮⁉︎」
小さな体一つでよく後宮まで行ったなと感心する一方で、もしも帰り道がわからなくなっているなら今頃相当困っているはず。
早く迎えに行ってあげたい伯蓮の逸る気持ちが顔に出ていたのか、それを察した朱璃は自身の胸をドンと叩いた。
「あやかし捜索係の私にお任せください! 明日から後宮に出向いて流を探してきます」
「……朱璃一人では大変だろう、私も――」
「伯蓮様は国のため公務を頑張ってください。それに私は一人ではありませんよ」
言いながら肩に乗る三々、涼亭に集まってくれたあやかしたちを眺めて笑顔を咲かせる。
「こんなにたくさんの仲間たちがいるんですから!」
おかげで行方不明の流の発見に、また一歩近づけたと喜んでいた。
だが、三々はため息をついて冷たい一言を漏らす。
「捜索は手伝わねーぞ、俺だって意外と忙しいんだから」
「わ、わかってるって。でも、またみんなの力が必要になったら、集合かけてもらっていい?」
「……お、おう」
人たらしならぬ、あやかしたらしがここにいた。
明るく素直な朱璃だからこそ、色んなあやかしが寄ってきて力になりたいと願う。
そう考えた伯蓮もまた、朱璃が困っていたり悩んでいたりしたら――。
いの一番に駆けつけて守れる男になりたいと、そんな願いを密かに抱くようになった。
「じゃあそろそろ解散するぞー」
三々があやかしたちに呼びかけて、皆が散り散りに棲み家へと戻っていく。
朱璃は一匹一匹にお礼を伝えて、最後となった三々を見送るまで涼亭を離れなかった。
「伯蓮様もありがとうございます。最後まで付き合わせてしまい、すみませんでした」
「謝ることはない。たくさんのあやかしに会えて私も嬉しかった」
「えへへ、私もです」
「王宮内にこんなたくさんのあやかしが棲みついていたことにも驚きだな」
新しい発見に満足げな伯蓮の横顔を見られて、朱璃も自然と嬉しくなる。
その時、急に冷たい風が連続で吹きはじめ、二人の髪を靡かせた。
同時に寒気を感じた朱璃が、一つのくしゃみをする。
さすがに秋から冬にかけての夜中は冷え込むから、厚着をしていない朱璃がくしゃみをするのも無理はない。
すると伯蓮は、自分の外套を脱いで朱璃に優しく羽織らせた。
「……え?」
「外は冷える。宮に戻るまで着ていろ」
「い、いけません! これでは伯蓮様が風邪を引きます!」
「私は大丈夫だ。鍛えているから」
言いながら蒼山宮に向かって歩き出した伯蓮に、朱璃も困惑したままついていく。
こんな高価で暖かい外套を借りてしまい、万が一伯蓮が風邪を引いたら――あの関韋に怒られることを想像した朱璃。
「や、やっぱりお返ししますぅぅー!」
走り出した朱璃はすぐ隣に並ぶも、全然歩みを止めてくれない伯蓮。
はたから見れば、年頃の男女が仲良く追いかけっこをしているようで。
それを木陰から覗いていたのは、後宮からわざわざ東宮の園庭までやってきた、あやかしの貂々だった。
「……。」
もちろん三々から集会への参加を誘われてはいたのだが、なぜか最後まで存在は隠したまま。
ただ、朱璃と伯蓮を交えたあやかしたちの集会の一部始終は、しっかりとこの場所から観察していたらしい。
その表情は、どこか複雑で儚げで。貂々が何を考えているのかは、誰にもわからなかった。