あやかし捜索係は、やがて皇太子に溺愛される



 後宮に到着した朱璃は、早速目撃情報があった食堂を目指した。
 しかし“視察”という名目で来ているため、それとなく視察中の雰囲気を醸し出しながら歩く。
 すると、様子を見に来た三々が颯爽と飛んできて、朱璃の頭に乗った。

「今日から本格的に捜索開始か?」
「三々おはよう! まずは食堂から少しずつ北に向かって進む予定」
「お前のことだから先に貂々に会いに行くと思っていたぞ」

 朱璃と貂々の関係性を知っていた三々が、意外だと驚いている。
 集会にこなかった貂々のことは朱璃も気になっていたが、きっといつもの場所で昼寝をしているだろうから。

「まずは捜索して、日没間際に貂々に挨拶して帰るよ」
「早く流を見つけてやらないとな。って俺はこのあと街の広場で大道芸を見に行くんだけど」

 流の捜索に協力的な三々だが、本日は王宮外の娯楽で忙しいらしい。
 あやかしの暮らしぶりについて未だによくわからないことが多い朱璃だが、貂々や三々を見ていると羨ましくもなる。

「自由に王宮を出られて、借金もなくて。……あやかしってもしかして自由?」
「俺は飛べるから王宮を出られるだけで……お前、王宮出たいのか?」
「あ……」

 何気なく問われて、朱璃はすぐに答えが出てこなかった。
 生活苦で仕方なく増えていく家の借金。それを返済するため、下女として後宮入りした朱璃。
 ただ、ここでの暮らしは衣食住が揃っているだけでありがたいと思っていたから、苦ではなく。
 しかし、いつになるかわからない借金を完済したら、両親から知らせが届き、任期を終えたら王宮を出る予定でいる。
 それはすなわち、貂々や星、他のあやかしたちとも会えなくなることを意味していた。
 そして朱璃は、あやかしに会えないことだけを悲観しているのではないことを自覚する。

(……伯蓮様にも、会えなくなるんだ)

 一度王宮を出たら、おそらく二度と会うことはない。
 あやかし好きの仲間ではあるけれど、伯蓮はこの国の次期皇帝であり、王宮の中で生きる高貴な方だから。
 今こうしてそばで侍女をしていることが、どれほどの奇跡なのかと思い知らされる。
 考え込んで動きが止まった朱璃を気にして、三々が更に声をかけた。

「まあ明日は手伝ってやるからよ、じゃあな」
「うん。気をつけてね」

 太陽目掛けて空高く飛んでいった三々を、朱璃は眩しさから目を細めて見送る。
 たとえ王宮を出たとしても、三々のように飛んでいつでも遊びに来ることができたら良いのに――。
 そんなことを考えながら、朱璃は捜索を再開した。


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