あやかし捜索係は、やがて皇太子に溺愛される



 それから連日、後宮に通っては流を捜索する朱璃。
 南から徐々に北に向かって、一つ一つの建物の中も慎重に確認していた。
 しかし、努力虚しく流はまだ見つからないまま。
 五日目の日没間際に、事件は起こる。

「三々、今日も協力してくれてありがとうね」
「だけど流は見つけられなかったな。お前はこれから貂々のところ寄るのか?」
「うん。でも最近、いつも昼寝していた木の上にいないんだよね」

 華応宮の中庭に向かって歩く中、肩に乗る三々とそんな話をする。
 ずっと中庭の木の上にいた貂々を、ここ最近全く姿を見ない。
 棲み家を移したのか、それとも何か他の原因があるのか。
 行方不明の流も見つからなくて、あやかしが突然いなくなってしまうことに少し敏感になる。

「あやかしが攫われる話とかは、聞いたことある?」
「いや、凶暴な奴はもっと人里離れた山奥や海にいるし、王宮(ここ)のは大人しいあやかしばかりだ」
「へぇそうなんだ。凶暴なあやかしもちょっと見てみたいかも……」
「やめろ、いい事ないぞ」
「ごめんごめん」

 危険なあやかしにまで興味を持ちそうになった朱璃を、三々は冷静に窘めた。
 王宮に棲みつくあやかしに慣れて、朱璃は可愛い外見の想像しかできていなかったけれど、
 きっと世の中にはもっと恐ろしい姿のあやかしもいるんだろうな、と三々のおかげで考え直した。
 ただ、流に引き続き貂々の行方もわからないのは、流石に事件性も感じてしまう。

「そろそろ日が暮れるぞ、早く帰った方がいいんじゃねーのか?」
「わ、ほんとだ! 急がないと」

 日没までには蒼山宮に帰って、伯蓮の夕餉に間に合うように朱璃は心がけていた。
 そうしないと、また伯蓮に冷えた食事をさせてしまう(心配させてしまう)と思ったから。

「ていうか、あの皇太子はちょっと過保護すぎないか?」
「私が頼りないから心配してくれているんだよ」
「は? それだけ?」
「それだけって……私のような元下女にも優しくしてくれる人格者なんだから」
「あ、そう(わかってねーなー)」

 三々でさえ感じていた、伯蓮が朱璃に対する特別な振る舞い。
 残念ながらそれら全て本人には全然伝わっていないことを、伯蓮に教えてやりたくなる三々だった。


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