あやかし捜索係は、やがて皇太子に溺愛される



 後宮の正門前までやってきた伯蓮と関韋。
 他の従者をつけず二人きりで現れたことに、門番の二人はかなり驚いていた。

「こ、皇太子殿下⁉︎」
「今朝、蒼山宮の侍女が後宮に入ったはずなのだが、まだ戻っていないのだ」
「い、今お調べいたします!」

 急ぎ記録帳を確認する門番を横目に、伯蓮は関韋と示し合わせるように視線を交わした。
 後宮内でも単独行動ができない伯蓮は、宦官らを引き連れて朱璃を探すことになる。
 そして男子禁制の後宮への立入ができない関韋は、朱璃との行き違い防止のため門前で待機。

「もしも朱璃が来たら、遣いをよこしてくれ」
「かしこまりました」

 すると門番は記録帳を何度も確認して、首を傾げながら伯蓮に伝える。

「入場記録はありましたが、退場記録が見当たりません」
「では連れ戻す。門を開けよ」
「か、かしこまりました!」

 記録帳を閉じた門番は威勢の良い返事をして、もう一人の門番は慌てて宦官を呼び出した。
 すっかり日が暮れた空は三日月と星々が輝いていたが、それらの光だけでは足りず。
 後宮の敷地内に設置された灯籠と、宦官らが持つ手持ち行灯の光が頼りとなる。

「伯蓮様、後宮にいらっしゃるなら事前にご連絡をいただかないと……」
「緊急なのだ。悪いが手分けして人を探してくれ。私の宮で働く侍女を」

 正門をくぐり後宮に入った伯蓮は、五人の宦官と合流した。
 しかし、ここへきた目的を話し朱璃の外見の特徴を説明して、すぐに各方面へと捜索に向かわせる。
 そうして一人の宦官だけが、付き人として伯蓮のもとに残った。
 少しずつ奥へと進んでいく伯蓮に、宦官は戸惑いながらも従うのみ。
 あちらこちらにあやかしの姿が確認できたが、宦官がいる手前、朱璃の行方を尋ねることはできない。
 すると、焦りが表情に出ている伯蓮に意外な人物の声がかけられた。

「まあ、伯蓮様ではありませんか」
「……尚華妃……」
「そんなに急いで、どうされたのですか?」

 まるで、伯蓮が来るのを予測していたかのように微笑みを浮かべた尚華が、華応宮の門前で立っていた。
 初夜の日以降、会うことを避けていた彼女を目の前にして、少し気まずさは覚えたものの。
 朱璃探しに急いでいた伯蓮は、ここは穏便に済ませたいと思った。


< 43 / 102 >

この作品をシェア

pagetop