あやかし捜索係は、やがて皇太子に溺愛される
「ようやく、ゆっくりとお話しできますね」
「……なるべく手短に」
「例の“元下女”がそんなに心配ですか? 妻のわたくしには初夜の謝罪も未だにないというのに」
「それは……本当にすまなかった」
余裕の表れなのか、筒杯を持ってゆっくりと水を飲む尚華に、伯蓮は視線を逸らして謝罪した。
ただ、尚華は宰相である胡豪子の娘。
関韋曰く「尚華妃は伯蓮様を慕っている」らしいが、父親に何を指示されているかもわからない妃の言動を、簡単に信じてはならない。
だから伯蓮は、本当の“尚華”と対話がしたかった。
「しかし、尚華妃は本当にそれを望んでいるのか? 親に言われるがままの婚姻、片手の指で足りるほどしか会ったことのない私と……」
「もちろんです。伯蓮様の人気は父上から常々聞いておりましたし、お顔立ちもわたくしの好みですし」
「私にその気がないことはわかっているだろう? 惨めではないのか?」
「…………何が、おっしゃりたいのですか?」
筒杯を静かに置いた尚華は、その笑顔を崩さない。
しかし掴んでいた手はなかなか離れず、必要以上の力が加わっているように見受けられる。
感情を揺さぶられていると感じた伯蓮が、尚華の目を見て語りかけた。
「尚華妃の人生は尚華妃のものだ。父、豪子のものではない」
「……そんなこと、わかっております……」
「だからこの婚姻の話は断るべきだったのだ。しかし……当時の私は、断るのを恐れてしまった」
言いながら苦悩で歪む伯蓮の表情を、尚華もじっと見つめる。
突然舞い降りた婚姻話を承諾したのは、豪子の後ろ盾がなければこの国を支えられないと考えた皇太子なりの決断だった。
しかし、いざ尚華が入内し初夜を迎えようとした時、どうしてもその足取りは重く。
部屋に入り妃を前にすると、とてつもなく消えてしまいたい衝動に駆られていた。
そんな絶望の中、突然部屋に乱入し全力で威嚇していたのは、あやかしの貂々。
そして、それを止めようと現れたのが、朱璃だった。