あやかし捜索係は、やがて皇太子に溺愛される
その様子をじっと見ていた尚華の口角がわずかに上がった事を、伯蓮は知る由もなく。
甘い香りに似合わず、舌がピリつくような初めての刺激を感じて瞠目する。
「……不思議な茶だな」
「はい。遠い異国の茶葉をいただきました。……父から」
「豪子から?」
最近、豪子とやりとりでもあったのか?と思った、その時。
体の奥から燃えるような熱を感じ、伯蓮は眉根を寄せて胸を掴んだ。
血流が一気に加速したように体温が上がっていき、汗とともに呼吸も荒くなる。
「……っ、なんだ……?」
明らかに体が異変を起こしていて、着ている服を脱ぎたくなるほどの衝動に駆られる伯蓮。
そんな状況で尚華に目を向けると、“最後”と言っていたはずの茶を彼女は飲んでいなかった。
「……っ毒か⁉︎」
「毒ではありませんのでご安心ください、ただ……」
言いながら尚華がふと目にしたのは、茶壺付近に置かれた鶸色の小さな巾着袋。
それは先日、豪子の指示で初老の侍女が預かり持っていたものだった。
「血行促進と身体感覚が研ぎ澄まされて、催淫効果も期待できる“お薬”ですわ」
「っ……尚華妃、何を……考えて……」
「わたくしは胡一族のために皇后にならなくてはいけないのです。それには……伯蓮様とのお子を産まなくてはいけません」
尚華は妖しく微笑みを浮かべると、ゆっくり席を立ち正面の伯蓮に腕を伸ばした。
身の危険を感じてそれを避けようとした伯蓮は、バランスを崩して椅子から落ちる。
すぐに立ちあがろうと床に膝をつけて踏ん張るが、うまく力が入らなくて立つことができない。
(……朱璃は、本当に無事なのか……?)
皇太子の伯蓮に対しても、恐れる事なく媚薬を盛る尚華に捕まった朱璃の安否を、何より心配した。
早く助けに行かないと――と思う反面、その居場所を知っている尚華にはもう話が通じそうにない。
絶望を感じながらも上体を起こそうとする伯蓮の隣に、いつの間にか尚華が屈んでいた。
「いずれ理性を失い、わたくしのことを欲しくなりますわ」
「……これも、豪子の、指図か……」
「はい。これでお子ができたら、きっと父上も喜びますね」
父親によって完全支配された娘の尚華にとっては、自分の意思や他人の意見よりも父親が絶対優先なのだろう。
説き伏せることができなかった上に、伯蓮の油断が尚華に好機を与えてしまうなんて。
そう後悔していると、伯蓮の火照った頬に触れてきた尚華が、蕩けた表情を近づける。
「さあ伯蓮様、今から初夜をやり直しましょう」
「ッ⁉︎」
抵抗する力も間も無く、伯蓮の意思に反して触れてしまった唇は、怒りと無力を痛感して震えていた。