あやかし捜索係は、やがて皇太子に溺愛される



(もしかして、これが最終目的……?)

 侍女らは口裏を合わせているだろうし、朱璃の証言がなければ犯人は不明のまま。
 何者かに攫われ監禁されている自分は寒さに耐えきれずここで命を落としても、尚華は罪に問われず明日を生きる。
 伯蓮との初夜を妨害したことを、やはり今でも充分恨まれていたと悟った朱璃。

(……お父さんお母さん、もう会えないかも)

 両親の顔を思い浮かべながら、ただただ寒さに耐えるため体を丸めた。
 そして、いつくるかもわからない助けをひたすら待つ。
 しかし、ここは後宮内でも誰も近寄ることのない場所のため、誰かが通りかかることは諦めていた。
 せめて声が出せたら――そう思って顔を上げた朱璃は、柱に顔を擦り付けて口を塞ぐ巾を外そうと試みる。
 すると思い通りにズルズルずれて巾が首元にぶら下がり、なんとか自由に話せるようになったその時。 

「ぷは、やった外せた!」
「……ミャウ」
「うわ⁉︎ 誰……?」

 どこからか猫のような鳴き声が聞こえてきて、朱璃は視線を至るところに向けた。
 すると本棚下のわずかな隙間から、一匹のあやかしが姿を現す。
 姿は猫のようで耳は兎のように大きい、空色をした可愛いあやかし。
 どこかで見たことのある特徴と容姿に、朱璃は確信して名前を呼んだ。

(りゅう)! 伯蓮様のところの流でしょ⁉︎」
「ミャウ⁉︎」
「やっと見つけた! 流〜!」

 あやかしが視える人間に出会ったことと、名前を呼ばれたことに驚いた流は一度は身を潜めたものの。
 恐る恐る顔を出して、朱璃の顔を再度確認して首を傾げる。

「あ、ごめんね驚かせて。私は朱璃。伯蓮様に流の捜索を頼まれていたの」
「ミャ?」
「伯蓮様も星も心配しているから、一緒に蒼山宮に帰ろう?」

 朱璃が優しい口調で語りかけると、流は安心したのか少しずつ近づいてきた。
 そして座り込む朱璃の足元までやってきたのだが、不服そうな表情で見上げてくる。
 何を訴えかけられているのか気づいた朱璃は、危機感のない笑顔を浮かべた。

「あはは、そうだった。私たち閉じ込められてるんだった……」
「ミャウ」

 流もコクリと頷いてみたが、朱璃を心配して不安げな瞳を向けてくる。
 今の状況では、せっかく流を発見できたのに伯蓮の元に連れ帰ることができない。
 そのことが何より残念で、朱璃は項垂れた。


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