あやかし捜索係は、やがて皇太子に溺愛される



 あやかしは空腹感も寒暖差も感じないから、今すぐ流の命が危険に晒されるという心配もないと思った。
 だから朱璃は、薄れる意識の中でつい口走る。

「…………生まれ変わったら、あやかしに、なりたいな……」
「……ミャ……」

 驚愕した流が目を見張る中、眠りについてしまった朱璃。
 こんな寒い場所でこのまま寝ていたら、朝までには持たないだろう。
 あやかしの流にはどうすることもできなくて、横たわる朱璃の体の周りをぐるぐる走る。
 その時、外気が漏れてくる細窓から星々が輝く夜空が見えた。
 そして奇跡的に一筋の光がものすごい速さで夜空を駆ける。

「……ミャウ」

 それを目撃した流は、暫し考えたあとに朱璃の背後に回って目を閉じ、精神を集中させた。
 流の主人(あるじ)である伯蓮に頼まれて捜索していたと言っていた朱璃。
 彼女に出会ってそれほど時間は経っていないけれど、それでも今の朱璃を助けたいと強く思えたのは。
 “あの”伯蓮にとって朱璃がどんな存在なのか、なんとなく理解できたような気がしたから。
 ここで見す見す死なせてしまっては、伯蓮が悲しむことが容易に想像できた。
 流と星にとって伯蓮は、自分たちあやかしを大切にしてくれる、尊敬に値するご主人様。
 その伯蓮と同じように、あやかしを大切にする心が朱璃にも感じられた。

「…………だから、俺が人肌脱いでやるよ」

 どこからか男性の声が聞こえてきて、眠りの中の朱璃は助けが来たのかと思い、意識を呼び起こそうとした。
 すると手足を縛っていた縄が解かれていく感覚がわかって、一目その姿を拝んでお礼を述べようと瞼をピクリと動かす。
 しかし、重たい瞼を開けようとしたところで、大きな手のひらで覆われてしまった。

「っ……あ……」
「いいから、眠ったままでいいよ」
「……は、い……」

 その手の温もりは明らかに人のもので、安心した朱璃は言われるがままに再度眠りにつく。
 そして冷たい床からそっと抱き起こされると、まるで誰かの腕の中で抱えられているような体温を感じた。
 朱璃の体を抱きしめながら暖めていく一人の男性。
 その髪色は、人間にしては実に珍しい空色をしていた。


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